「第2期高校教育改革推進計画(原案)」に対する意見(2021年2月24日)

*「第2期高校教育改革推進計画(原案)」全体について

群馬の「教育改革」とは「再編整備・統廃合」のこと?

 今般の「第2期高校教育改革推進計画(原案)(以下「計画案」)」は、「社会の変化」「生徒の多様化」「中卒者の減少」「教育のデジタル化」という「高校を取り巻く環境の変化」を背景に、「特色ある高校教育の推進」を図るために策定されたとのことです。しかし、前回の「高校教育改革推進計画(2012~2021)」と同様、その大半が「高校の再編整備」に関する事項に割かれています。これまでの検証と反省がなされぬまま策定されたこの「計画案」は、「教育改革」とは名ばかりで主に学校統廃合の目安を示すための見取り図であり、私たちはまずそのことに大いに疑問と失望を抱きました。


*「はじめに」について

「群馬ならではの学びを進める『教育イノベーション』」とは?

 「計画案」の冒頭にある「はじめに」では、計画策定の視点の一つに「教育イノベーション」が掲げられ、来年度予算案にも「新たな時代を切り開く『始動人』育成」との文字が見えます、これらの言葉も知事個人の心意気としてなら理解可能ですが、多額の税金を投入する教育施策としては具体性や緻密さに欠けます。百歩譲って、これが「デジタル社会に適応した人材育成」を目的とした政策だとしても、「群馬ならでは」の但し書きが謎を深めます。具体策として近頃頻出の「デジタルトランスフォメーション」や「ICT」「STEAM教育」等を謳っていますが、もはやそれが群馬の独自性とはなり得ないことは明白です。そもそも、「100年続く自立した群馬(来年度予算案キャッチコピーより)」を実現し、「群馬の未来を担う人材を育成(「計画案」の「はじめに」より)」するはずの「計画案」が、現在ある学校環境の縮小を仄めかす内容であることには当惑せざるを得ません。


*主に「Ⅲ 生徒受入体制の在り方 2 県立高校の再編整備」について

「中核校」は維持、「拠点校」は整備。「それ以外の学校」は?

 「再編整備」の目安として「適正規模」が示され、それを下回る学校は統合等による「適正化を図る」ことが示された「計画案」を読んで、多くの県民が「学校がなくなる」ことの恐怖を覚えたのではないでしょうか。その一方で、全県8地区毎に普通科の中核となる学校を維持し、職業系専門学科の拠点校を全県的視野で整備することが示された内容に、私たちは強い違和感を覚えました。なぜなら、この「計画案」で新たに用いられた「中核校」「拠点校」の呼称が、その指定を受けた学校の今後の圧倒的優位性を担保し、その一方で、それ以外の学校が今後の存亡の危機に絶えず苛まれることを意味するからです。「維持・整備」のお墨付きを授けられた学校とそうではない学校の間に生まれる差別・分断は、学校関係者(教職員・生徒)の意識だけでなく、多くの県民にも伝播することが予想されます。これにより自然淘汰的に高校の「適正化」・「男女共学化」が一層進むことをこの「計画案」が当初から企図しているとは考えたくありませんが、ほとんどの高校で生徒たちまでもが生き残りのための学校間競争に動員される苛烈な状況が予想されます。

 また、具体的な共学化案に言及のないこの「計画案」では、男女共学推進の根拠となる「SDGs」の語も空しく響くばかりです。小規模校については、前回の計画にあった「分校として学校を存続」や「学級定員の引き下げ」の記述は消え、代わりにさらなる特色化と「40人を下回る状況3年連続で再編整備を検討・実施」との方針が示されました。これを見て、年限を切られてこれ以上何をすればいいのか呆然となった学校関係者も多いはずです。


*主に「Ⅲ 生徒受入体制の在り方 5 入学者選抜」について

高校入試の全県一学区制は見直しを!

 「計画案」では全県8地区毎にそれぞれ基本的な考え方と取組の方向を示しています。その中の今後の学級数と学校数の予測は一考に値する内容です。しかし、この予測も同一地区内への進学者割合が一定で推移することが前提のため、今の全県一学区制では当てにならないことはこの予測を立てた担当者自身が一番承知しているはずです。それは10年後の学校数の予測振れ幅が地区によっては3校分もあることからもわかります。そもそも、全県一学区制と各地区毎の「中核校」指定の方針には、施策上の一貫性がありません。それぞれが「その場しのぎのご都合優先策」にすぎず、これでは受検生だけでなく学校現場の混乱は必至です。2007年の全県一学区制導入は、受検生の都市部への集中を招きました。これに「中核校」「拠点校」の指定が加われば、無理に無理を重ねることになります。生き残りをかけて鎬を削る学校間競争の狭間で、教育施策に弄ばれた挙げ句に行き場を失う受検生や在籍校が消える高校生が多数出ることになるのではないでしょうか。この機会に全県一学区制を見直し、全県の子どもたちが通学するのに無理のない学校の存続と各地域を基盤とした学区制の再構築を求めます。


*主に「Ⅲ 生徒受入体制の在り方 5 入学者選抜」について

「選抜制度の改善」「受検機会の見直し」に期待します!

 今回の「計画案」では初めて私立高校について言及し、高校進学者の25%を占めるとの資料を含めた上で「私立高校との協調」「現状を基本」などの文言が見えます。これは不可侵にあった私学への生徒急減期に向けての今後の布石とも読み取れます。

 一方、2017年の前期選抜学力検査導入以降、入試業務により在校生の家庭学習日が増えた状況は、コロナ禍により日々の学習活動をさらに圧迫しています。全国的にも入試機会の一本化が進む中で、群馬県の前後期入学者選抜には「二度のチャンスがある」との一見甘美なイメージだけが流布し、入学定員の変わらぬ中で複数回の入試をすれば不合格経験者を増やすに過ぎないことの不条理が見落とされています。在校生の学習が阻害され、人的ミスのリスクも高まる複数回入試には何のベネフィットも見当たりません。「計画案」にある「選抜制度の改善」のため「受検機会の見直し」が一刻も早く行われ、入試の一本化を基軸とした選抜制度に改善されることを強く求めます。


*主に「Ⅲ 生徒受入体制の在り方 2 県立高校の再編整備」について

「ニューノーマルGUNMACLASSプロジェクト」を高校にも!

 来年度予算案で、国の施策に上乗せした県独自の少人数学級編成の導入が示されたことは大いに評価できます。さらに、このプロジェクトの対象を小中学校だけでなく高校にも拡大することを強く求めます。これが実現されれば、全国に先駆けた「群馬ならではの学びを進める『教育イノベーション』」へ大きな足がかりとなるはずです。少人数学級編成の有効性は、同じ県立の中央中等教育学校で30人学級が当初より実施されていることからも、すでに実証済みです。この「ニューノーマル」を他の県立高校にも適用することは、地域の荒廃に繋がる学校統廃合よりも格段に有効であることは明らかです。

 学校はその地域における文化の拠点であり心の拠り所です。その地域で生まれ育ち学んだ子どもたちは、やがてその地域にしっかり根付いて生きる大人になります。そういう生き方を否定し生徒の都会志向を助長して、闇雲に進学競争を煽ってきたこれまでの「進路指導」には、社会の持続可能性の観点から大きな欠陥があり、それに加担し続けてきた教員の猛省も求められています。

 コロナ禍で先の見通せぬ現状で、変化を好まない学校風土に対してこの「計画案」を大きな変革のチャンスと考える若い教員もいます。生徒の急減に対し学校統廃合のみにとらわれた思考から脱却し、豊かな教育が地域で持続するために、今だからこそできる実効ある教育施策を私たちは求めます。                                                   (以上)


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