群馬県教委2月会議を傍聴して
・「都道府県・指定都市(新任)教育委員研究協議会」の報告が参加委員からありました。その協議会で「群馬県の教
職員の多忙化解消に向けて【提言R4】」を紹介したところ、「持ち帰り業務」のデータが他県の委員から注目され
たとのことです。このデータでは、小中学校で月当たり1回以上の持ち帰り業務を行っている教職員が7割以上い
ることが示されました。群馬県の「教職員の多忙化解消に向けた協議会」では、このデータに基づき「持ち帰り業
務の縮減と記録の徹底」を協議したようです。しかし、持ち帰り業務が発生するのは、ICTによる在校等勤務時
間管理など「勤務時間の記録の徹底」によるところが大きいと考えられます。つまり、学校での勤務時間が制限さ
れているために、学校でやることができなかった仕事を家に持ち帰らざるを得ないのではないでしょうか。持ち帰
り業務は、時間管理がルーズな教職員の勤務態度や意識によるものではもちろんなく、多岐にわたる膨大な業務量
によるものであることは明らかで、業務全体の抜本的な見直しと大幅な削減以外に、教職員の多忙化を解消する方
法はありません。
・同じ「都道府県・指定都市(新任)教育委員研究協議会」で文科省担当者から、「土日に部活動指導員が配属されて
いるのに教員もいるのはなぜ」との疑義が出されたとの報告がありました。教員の負担軽減を目的に一部の部活動
に配属されている部活動指導員ですが、土日の部活動を部活動指導員にすべて委ねることはできない現状や、部活
動指導のさらなる補強のために部活動指導員がごく一部の部活動にのみ配置されている実態など、教員の負担軽減
につながっていないことを文科省担当者はご存じないようです。「学校の部活動を地域に移行する」との文科省の
方針に対して、教職員の負担軽減の観点からも私たちに異論はありません。しかし、地域での部活動の担い手が充
分に確保されていない現状や、部活動実績を評価に含む入試制度が広く行われている実態がある以上、「部活動の
地域活動化」は到底実現しません。教職員の働き方改革とそれに伴う部活動改革を着実に進めようとするなら、文
科省や教育委員会は多くの教職員からの声に真摯に耳を傾けた上で、長期的展望に立った制度設計を行い、惜しみ
ない予算措置と人員配置をすることが必要です。
・県内の学校・園の統廃合についての報告がありました。その中に、給食調理方式をめぐり多くの地元住民や市議会
で大問題となっている新設小学校の名前もありました。しかし、この問題には一切触れることなく簡単な報告のみ
でした。少子化により今後益々増加が予想される学校統廃合に伴い学校設備や職員配置・通学環境などが問題とな
ります。これらの問題に対して、市町村立学校を含む全県の教育機関において学ぶ者の視点に立った教育が提供で
きるように、県教委は万全の努力を尽くすべきです。
・外国につながる子供たちの学びの支援サイト「ハーモニー」について情報拡充の報告がありました。これまで日本
語指導など個々の教員に委ねられてきた学習支援を共有化することは有意義なことです。さらに、ある委員からの
要望にあった「中学生以上へのコンテンツ拡充」を図ると共に、一刻も早く夜間中学の設立を要望します。
・ある教育委員が卒業式時の卒業生名簿が県内3割の高校で男女別であることに触れ、男女混合名簿をスタンダード
とすることを要望しました。ジェンダー平等の観点から男女混合名簿にすることは当然ですが、現在3割の高校が
男女別名簿であることに驚きました。男女別学高校があること自体も論外なのですが、男女別を当然とする「しき
たり」や「意識」が群馬県に強く残っていることが問題です。
・「#教師のバトン」をはじめとして文科省や教委が教職の魅力発信に躍起になる一方で、教育現場の苛烈な現状が明
らかになるにつれ、教職を志望する若者の減少が深刻です。事態は、「教職のプロモーション動画」などではどう
にもならない所まで悪化しているのです。それにもかかわらず、文科省や教委が業務削減や増員など教職員の待遇
改善に目を背ける状態を続ければ、早晩「教育崩壊」は免れ得ません。
・県教委のホームページでは、相変わらず定例会議の「会議録」の掲載が今年9月でとまったままです。(2月22
日現在)。この事態は、今回の会議において非公開議案が全9議案中6議案を占めることとあわせ、情報公開の観
点からも明らかに異状です。そして、「教育長は、教育委員会の会議の終了後、遅滞なく、教育委員会規則で定め
るところにより、その議事録を作成し、これを公表するよう努めなければならない」とする「地方教育行政法第1
4条9項」に、群馬県教育委員会は明確に違反しています。(以上)・3月1日の高校卒業式に出席した教育委員からの報告がありました。参加した各委員から「凜とした雰囲気」「丁寧なお辞儀」「厳粛な式」などの感想がありましたが、毎年数校の卒業式への教育委員参加にどのような意味があるのでしょうか。高々2時間程度の儀式に出席することで、その学校の教育実践の内容を理解することは不可能ですし、生徒の「お辞儀」の仕方などで判断できることは何もありません。「蔓延防止等重点措置」下で生徒の卒業に花を添えることが目的なら、生徒にとって何の縁もない教育委員の来賓参加は決して有効な方法ではありません。
・高校入試後期選抜に関する報告が担当課長からありました。全県の全日制後期選抜の志望倍率が初めて1.0倍を切り、募集定員に対する充足率も下がりました(94.03%)。再募集実施校は25校、再募集人数は724人に及び、前年度をさらに146人も上回りました。再募集を実施するのは、都市部の高校や近年再編整備を行った高校も多く含まれ、多くの学校で定員が埋まらないこととなります。その原因として、少子化の影響だけでなくこれまで県教委が行ってきた再編整備計画の不調が考えられます。生徒減を背景にして「生き残り競争」と「統廃合」を各校に迫る今までの県教委のやり方自体に、大きな欠陥があったと言わざるを得ません。「定員割れ」を理由に、この上さらに学級減や学科減・学校統廃合を進めてゆくなら、群馬の高校教育ひいては公教育全体が崩壊してしまいます。これまで私たちが提起してきた「少人数学級の実施」や「学区制の再構築」を含む改革策を早急かつ真剣に議論すべきです。(再募集724人に対する志願者は91人でした。)
・上記の件を含め全ての報告に関して会議での質疑応答が全くなかったことは、教育委員会の意義を考える上で大変深刻な問題です。
・今回の会議では12の審議議案がありました。(内、3議案は非公開)
・公開審議の9議案中、唯一質疑があったのは第63号議案「群馬県高等学校管理に関する規則の一部を改正する規則について」です。来年度実施の高校学習指導要領により「総合的な学習の時間」を「総合的な探究の時間」に名称変更することに関して、ある委員からその理由を問われた担当課長は「学習指導要領改訂によるもの」と回答しました。単なる名称変更ではなく、その背景となる文科省の意図に対する委員からの疑問・質問に対して、この「木で鼻を括ったような」回答には呆れました。これにはさすがの教育長も「自ら問いを立てるなど主体的な活動を図るため」と補足しました。さらに、「これにより子どもが主体になる授業に変わるのか」という疑問が改めて委員から提示されましたが、これに対する明確な回答はありませんでした。もしかしたら、担当者にとっても不分明な問題なのかもしれません。
ここで改めて、新旧学習指導要領にある「総合的な学習の時間」と「総合的な探究の時間」のそれぞれの目標を示すと、「横断的・総合的な学習や探究的な学習を通して、自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育成するとともに、学び方やものの考え方を身に付け、問題の解決や探究活動に主体的、創造的、協同的に取り組む態度を育て、自己の在り方生き方を考えることができるようにする。(総合的な学習の時間)」「探究の見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して、自己の在り方生き方を考えながら、よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を次のとおり育成することを目指す。(「次のとおり」の3項目は省略)(総合的な探究の時間)」です。
「学習」から「探究」に変えた今回の改訂の意図について学問的興味は尽きないものの、実際の教育現場でこの改訂の意図が正確に反映されるかは大いに疑問が残ります。そして、このような「上からの改革」の際に毎度繰り返されるのが、「キャッチフレーズの流行」「拡大解釈の横行」「形骸化・形式化の蔓延」と「不毛な作業に忙殺される教職員の消耗」であり、それはすでにあちこちで始まっています。
・前回の2月定例会議で、ある委員から要望が出された「男女混合名簿」ですが、この件に関する報告はありませんでした。県内3割に上るとされる「男女別名簿」の行方が非常に気になるところです。
・県教委のホームページでは、相変わらず定例会議の「会議録」が昨年9月で止まったままで、3月会議は「概要」すら記載がありません(3月25日現在)。この状態のまま年度を越えるのでしょうか。改めて、現状が情報公開の観点からも明らかに異状な事態であり、「教育長は、教育委員会の会議の終了後、遅滞なく、教育委員会規則で定めるところにより、その議事録を作成し、これを公表するよう努めなければならない」とする「地方教育行政法第14条9項」に、群馬県教育委員会は明確に違反していることを指摘します。
(以上)