群馬県教委月定例会議を傍聴して

・英語教育実施状況調査について

 今回、英語教育実施状況調査の結果が県教委定例会議で初めて報告されました。その意図は不明ですが、群馬県の中学生の「英語力」が前年度に引き続き全国3位(高校生は23位)だったことや、全国平均を上回る群馬県の英語教育の取組状況についての報告でした。これに対してある委員から、中学生・高校生の「英語力」の(全国順位の)差を問題視する発言や群馬県教育ビジョンが掲げる「グローバル人材の育成」のための課題が指摘されました。

 そもそも、この調査では中学生に求める英語力をCEFR A1レベル(英検3級程度)以上、高校生に求める英語力をCEFR A2レベル(英検準2級程度)以上とし、中・高3年生の12月時点での英検など外部試験の資格取得人数などを各校の教員が回答します。中学生の「CEFR A1レベル相当以上を取得している生徒数」と「CEFR A1レベル相当以上の英語力を有すると思われる生徒数」の合計人数の割合を集計した文科省の資料では、47都道府県及び20政令市の結果を横並びにした棒グラフにより、自治体間の「英語力」の差が一目瞭然となります。

 同一問題による結果ではなく、外部試験の取得状況と教員の主観的判断が軸となる調査手法のため、実際の英語能力とは無縁のものとの指摘もあり、文字通り英語教育に関する施策の実施状況を都道府県及び政令市間で比較・検討するための調査ともいえます。それは、文科省による「自治体間の差の改善に取り組む必要がある」との「調査まとめ」や、今回の県教委会議での「中学生の英検取得には実は市町村による補助が背景にある」との担当課長の「分析」からも明らかです。

 しかし、この調査結果がそのまま生徒の「英語力」と勘違いされたり、全国順位による自治体間競争のタネとなったりしているのが現状です。現に、今回の会議でもある委員により「中学の時は皆すごく良いが、高校になると一部の人が流れて行っている」「トップ層がすごく良くても、英語力を高校になっても維持するにはそれを抑えることが必要」というような、短絡的で一面的な誤解釈が披露されました。

 無闇に自治体間競争を煽る点で「全国学力・学習状況調査」とも共通し、文科省の施策への忠実さや自治体支援の有無が反映されたこのような調査に時間や労力をかけている余裕は、もはや教育現場には全くありません。

 むしろ、県教委は今年度高校入試の英語の結果を直視し、その原因の分析と今後の改善に傾注すべきです。

・公立高校卒業者の進路状況について

 大学進学者率が過去最高だった前年度をさらに上回り52.2%となったことが報告されました。大学と短大を併せた割合も5年連続増加し55.0%とのことです。

 しかし、昨年5月の当「ちょこっとコメント」で「高卒者の50%超の大学進学者中60%超が県外大学へ進学し、その70%超が県外に就職する」という群馬県の現状(県労働政策課調べ)を「人口無限減少ループ」と指摘しましたが、今年もその傾向にあまり変化はなさそうです。

 一方で、前年度と比較して全体人数が432人減の11,421人中、大学進学者を含めたいずれの進路先も実人数が減っている中で、「その他」に区分された人数だけは79人増加しその原因分析が必要ですが、会議での言及はありませんでした。例年通りの書式に新データを差し込むだけのおざなりな資料ではなく、私立高校の状況も含めた群馬県全体の若者の複層的な動向分析を県教委は本腰を据えて行う必要があるのではないでしょうか。

・児童・生徒数及び実学級などについて

 担当課長の「県全体の児童・生徒数は3,462人の減少だったが、ほぼ現状通りの9学級減に留まった」との報告にどんな意味があるのか不明ですが、児童・生徒数の増減が即学級の増減につながらないことは学級編成上自明の理です。それより、多忙な新年度当初に児童・生徒数のわずかな増減により急遽大幅な変更を余儀なくされることのある教育現場(増減の可能性があると「危険学級」の呼称で用心)の現状を、県教委はもっと認識すべきでしょう。

 「教職の魅力向上」をテーマとした1都9県教育委員全員協議会が実施されたとのことですが、教員の「定額働かせ放題」の現状から目を背け、「教職の魅力」で若者を呼び込む方策ばかりを考えていては、何の効果もないどころかますます学校が立ち枯れて行くばかりです。呆れたことに、今回の会議でも包括外部監査については一言も触れることはありませんでした。まずは、県教委自らに突きつけられたこの監査結果の報告書を素直に読み込み、今まで事あるごとに現場に求めてきた「PDCAサイクル」を自ら回してみてはいかがでしょうか。 (以上)

2024.5.29