群馬県教委1月会議を傍聴して

・インクルーシブ教育について

 9月の海外視察や12月のイベントなど県教委が進めるインクルーシブ教育関連事業の報告と紹介がありました。いずれも群馬県教育ビジョンに謳われた「群馬ならではのインクルーシブな教育の構築」に向けたものと思われます。

 2022年国連からの日本の特別支援教育に対する改善勧告を受けて今後の国の動向も注視されますが、県内でもインクルーシブ教育の意味をめぐって各人の思いや考えが複雑に交錯しているようです。実際、6月に行われた第1回群馬県インクルーシブ教育推進有識者会議でも、インクルーシブ教育の捉え方からして参加者各人各様でした。曰く「群馬のインクルーシブ教育とはこういうものだと今はっきりとあるわけではない」「これまでと何も変わらないと捉える方もいる」「国際的に流通する概念との関係を示すことが必要」「中身が抜けて形だけが動こうとしていることに違和感」「インクルーシブな学校という看板に変えただけ」「特支校は共生社会の実現を目指し児童生徒の自立と社会参加が目標」・・・。このような議論の末、「何のためかを詰めないままの外国調査はやめるべき」「群馬県が目指すインクルーシブ教育の共通概念をもてるように取り組むことが大事」との発言で会議が締めくくられました。(https://www.pref.gunma.jp/page/653936.html)

 そもそも、「群馬ならではのインクルーシブな教育」という言葉の据わりの悪さは、他県との違いを際立たせる独自性を強調する「群馬ならでは」と、個々の違いを超えたすべての人の包摂を目指す「インクルーシブ」の概念とは完全に対極にあり、一語の中で内部矛盾があるからと思われます。

 今後の有識者会議では、大雑把な「推進ありき」の事務局案ベースの意見調整に終始することなく、子どもや保護者・教員など幅広い当事者たちの声に真摯に耳を傾けた上で、有識者としての見識を生かした丁寧な議論が行われることを切望します。

 今回の教育委員会会議の海外視察報告では、スウェーデン・デンマークにおいて多様な子どもたちへ柔軟な対応がされていたという現状に関する情報提供にとどまり、県教委事務局から5人が派遣された海外視察にしては、両国の社会構造の特徴や公的教育支出の状況・今に至る経緯などについての言及はほとんどありませんでした。12/7のシンポジウムで行われるという海外視察報告では、そのあたりの詳細な成果発表があることを是非とも期待します。

・再び一人当たりの教育支出額について

 前回のちょこっとコメントで地方教育費調査の結果に触れましたが、改めて群馬県と全国の平均額との差額を確認すると、入手可能な最新データの2022年度では、在学者一人当たりの公的支出総額は、小学校は-14,038円の991,466円(33位)、中学校は-60,284円の1,101,337円(33位)、特別支援学校は+669,856円の7,993,355円(20位)、高校全日制は-119,099円の1,202,015円(39位)、高校定時制は-656,529円の1,592,839円(45位)、高校通信制は+43,797円の398,958円(22位)です(政府統計/地方教育費調査参照)。

 47都道府県中の順位(支出額の多い順)はあくまでも参考ですが、実際の支出額でも群馬県はほとんどの校種で全国平均額を大きく下回っています。マイナス金額が突出している高校定時制は言うに及ばす、県内の高校生の大半を占める高校全日制では一人当たり約120,000円も全国平均額を下回りこれに公私立の県内高校全日制在学者数約46,000人を乗じれば約55.2億円、約60,000円少ない中学生では約30億円、約14,000円少ない小学生では約12.6億円も全国平均を下回っているわけです。2022年度予算の県教委関連主要事業で最も高額だったニューノーマルGunmaClassプロジェクト(小中学校の少人数学級編成)は約8.8億万円でしたが、それを差し引いても群馬県の教育支出が全国の平均レベルを大きく下回っているかがわかります。

 この資料では特別支援学校の支出額も目を惹きますが、その施設・設備・人員配置・在学者数などを考慮すると経費が高額となるのは無理からぬことであり、群馬県もこの項目では全国平均額をかなり上回っています(ただし都道府県順位は20位)。

 その一方で、前項にあげたインクルーシブ教育をめぐり、「経費上有利な点がインクルーシブ教育を採用する根拠の一つになっていることは欧米では一般的事実」㊟のように、その推進理由が教育コスト全体の抑制策との穿った見方もあります。

 教育環境を金額だけで一概に判断すべきではないにせよ、群馬県の各教育機関への公的支出が全国平均を大きく下回っている傾向はここ数年変わっていません。インクルーシブ教育の理念には「すべての子どもたちが違いをこえて同じ環境で学ぶこと」がありますが、その推進を図ろうとする群馬県であるならば、これまでの抑制的な教育支出の方針を抜本的に見直して、すべての教育機関のすべての子どもたちへ、せめて全国平均並みの支出をするべきではないでしょうか。

        (以上)

㊟中村満紀男「インクルーシブ教育を実効化する条件としての特別支援教育教員免許および就学制度の抜本的改善と関係者間の新たな提携」(2024.5つくばリポジトリ)参照

2024.11.29