群馬県教委12月会議を傍聴して
・非認知能力の育成について
「非認知能力の評価・育成事業におけるスコットランド共同研究に係る教職員の海外渡航」の報告がありました。その渡航報告に先立ち、スコットランドとの共同研究の経緯についての説明がありました。それによると、「スコットランドでは25年前に教育に関する権限が中央政府から委譲され、独自の新しいカリキュラムを実施。そのカリキュラムが群馬県が目指している方向性と同様に、非認知能力と認知能力を複合的に位置づけて、あるべき市民・社会あるいは自分のために良い方向に進んで行くような人を育てていく方向で現在教育改革を試行錯誤中。そのため、群馬県が一緒に考えていく相手としてふさわしいとの推薦をOECDから受け、昨年11月に山本知事・平田教育長がスコットランドを訪問し、関係者から共同研究の同意を得た」とのことです。
その共同研究とは、「両校の学校同士が両国の専門家の助言を受けながらそれぞれ関連した取り組みを行い、両国の教員や教育行政職員が一緒に研究会等を行っていく」というもので、今回の海外渡航はその共同研究の一環として、SAH(Student Agency High school)指定校の内、共同研究を行う伊勢崎高校の教員等がスコットランドの研究相手校等を訪問し具体的な研究の進め方について協議等を行ってきた、とのことです。
非認知能力とは、その言葉の通り、数値化できない人間性や行動特性を指すもので、1960年代にアメリカの経済学者が貧困家庭を対象に行った調査と実践研究のための幼児期教育がその発端とのことです。公教育の大きな使命として教育格差を解消するために、非認知能力に含まれる社会情動的スキル(感情のコントロール・他者との協働・目標の達成などの能力)を調査することで、教育格差の背景にある社会問題や教育課題を洗い出すことは大切だと考えます。しかし、「社会をより良くするためのエージェンシーを発揮する人材」、つまり、会社などで「使える人材」の育成を主目的として教育が行われることに、私たちは反対します。なぜなら、教育は私たち自身がより良く生きるために私たちに保障された権利だと考えるからです。
これまで当ちょこっとコメントでは「教育現場にさらなる負担と混乱をもたらし、教育委員でさえ危惧する「非認知能力育成の自己目的化」や県民からの誤解を免れ得ない」として、非認知能力の評価・育成事業を批判してきましたが、既定路線として教育ビジョンにも盛りこまれ、今や群馬の教育イノベーションを象徴する業界用語の印象さえあります。
今回、高校教育課長や伊勢崎高校校長等7名がスコットランドに出かけ、今後オンラインで協議・意見交換を行い共同研究を進めることを決定し、実際の学校見学と教員研修を体験した、との報告がありました。しかし、スコットランドで試行錯誤中の教育事情の詳細や会議でも質問が出た教員研修についての報告はありませんでした。せっかくの渡航ですから、譲り受けた資料の分析と併せて、詳細な報告が今後きちんと公表されることを期待します。
・通級指導について
12/16にあった利根・沼田地区教育行政懇談会の参加報告がありました。「通級指導の現状と課題」をテーマに事例発表と意見交換が行われ、それに先立ち通級指導教室の見学もあったようです。
「通級指導」とは、通常の学級に在籍し言語や情緒などで障害を持つ児童生徒が、大部分の授業を通常の学級で受けながら、一部の授業を障害に応じた「自立活動の指導」を別室で受ける指導形態です。インクルーシブ教育推進の流れの中で、これまでの通級指導の在り方や現状・課題は、県民からの関心も高い事項だと思われます。
意見交換では、通常学級担任と通級指導担当との連携・情報共有に難点があるとの課題も指摘されたようですが、会議では委員からの惜しみない賛辞はあってもそれ以上の深掘りはされませんでした。
義務校に比べ歴史の浅い高等学校の通級指導は、7年前のスタート時から県内各所のサテライト学習室など数カ所で通級指導が行われていますが、義務校でこれまで通級指導を受けてきた児童生徒の受け皿として充分機能しているか甚だ疑問です。
また、県内の公立高校63校中38校で進学希望者数が定員未満となった今回の調査結果について、会議での質疑はまったくありませんでした。2007年度の学区撤廃以降、都市部の高校に希望者が集中する一方で、それ以外の大半の高校では定員割れに悩み学級減か統廃合しか他にない今の状況が、会議では委員から一顧だにされないことを深く憂慮します。
今回の会議で、企業に改革を起こす人物が学校ではどういう生徒かが話題になりました。しかし、群馬県の今後の教育を決める教育委員会会議ですから、社会(企業など)にとって有用な人材作りの議論よりも、すべての人が人として尊重される社会作りの議論を、教育委員の皆さんにとことん尽くしてほしい、と私たちは考えます。 (以上)
2024.12.28