群馬県教委月会議を傍聴して

・改めてインクルーシブ教育について

12月23日に開かれた「群馬県インクルーシブ教育推進有識者会議(第2回会議)の結果が報告されました。教育委員会会議で配布された資料には「協議における主な意見(要旨)」がありましたが、要約の度合いが少し緩い意見の要旨や報告内容が県教委のウェブページに掲載されていて、当日の会議の様子を窺い知ることができます。

(https://www.pref.gunma.jp/page/682729.html)

海外視察やイベントの結果報告に対する感想や印象が縷々語られる中で、会議の話題が「共通概念としてのインクルーシブ教育」を軸としたものであるのは当然とはいえ、「群馬ならではのインクルーシブな教育」についての明確なコンセンサスが有識者間でもいまだ得られていないことがわかります。

県教委11月会議や12月シンポジウムでは通り一遍の内容だった海外視察について、詳しい報告が上記の会議資料にあることは評価します。しかし、第1回有識者会議でも「推進ありき」の海外視察に疑義が出されたように、たった数日間の視察で得られる知見が極めて限定的なことは渡航する以前に充分予想されていたことです。そして、教育環境や文化的背景が群馬と大きく異なるデンマーク・スウェーデンで、多様な子どもたちへの豊かな教育資源の提供と教員の柔軟な対応があったという報告自体に、特に目新しさはありませんでした。

また、「ぐんまインクルーシブフェスタ」と銘打った一連のイベントでは、参加延べ人数が4,500人にのぼり大盛況だったことが報告されました。ただ、このイベントがインクルーシブ教育についての一般県民の認知度を高めることになったか否かは有識者からも疑問が呈され、今後商業施設などでの広報案も討議されたようです。

そもそも、今後の学習形態の一つとして構想されているインクルーシブ教育に関して、まだ有識者会議でも共通概念さえ定まらない現段階で、一過性の広報イベントの成果を喜び合うことはおろか、今後の広報の仕方についてあれこれ討議すること自体、本末転倒と言わざるを得ません。この会議が、すべての児童・生徒にとって大事な学校での過ごし方について真摯に検討する場であることを、有識者の方々にもう一度肝に銘じてほしいと考えます。

この状況の中で、ある有識者からの「この取組はある意味トップダウンでスタートしており、それを先生方がどう自分たちにとって必然の取組に転換していくことができるのか」という発言は、この取組の性格を正確に言い当て、ひたすら前のめりの県教委の姿勢を浮き彫りにしています。

私たちぐんま教育文化フォーラムは、すべての児童・生徒が障害・性別・国籍・経済状況によって差別されず等しく豊かな教育を享受することを目指す点で、インクルーシブ教育の趣旨に賛成します。

しかし、増加する不登校やいじめ、深刻化する教員不足など山積する教育課題にあえぐ学校現場に、多様な児童・生徒を個別最適かつ主体的・対話的で深い学びにいざなう力が残されているでしょうか。

まずは、これまで何度も指摘した通り、群馬県の低廉な公的教育支出をせめて全国水準まで引き上げることと共に、浅薄なアピール優先のトップダウン型の施策を根本的に改め、教育現場からの切実な声を真摯に施策に反映する教育行政への転換を、群馬県及び群馬県教委に強く求めます。

・カリキュラム・オーバーロードということ

新任教育委員を対象とした都道県指定都市教育委員研究協議会の件が報告されました。分科会では事前にレクチャーを受けた委員が各自治体の取組紹介をしたようですが、これらの取組は教委でも担当部署でなければ把握もされていないほど数多くかつ多岐にわたります。そして、そのすべての取組に対応することが教育現場には求められているのです。例えば、今回の会議だけでも「ギガスクール構想に基づく一人一台端末の利活用」「規格が不統一な校務DXへの対処」「ネットリテラシーや情報モラル教育の教科学習への紐付け」「SOSの出し方教育の推進」などの話題が上がりました。しかし、これらの現状を問われた担当課長の「国の指示で年間計画のどこに入れるか考えたことを覚えている。一体どれくらい使っているかが課題で、毎日の授業でどう入れていくかが大切で、単発で終わらないような指導にしたい」との答えには、当事者意識は微塵も見られず、市町村教委を通じて現場に周知したあとは「すべてお任せ」の姿勢が明らかです。国・県の意向を現場に指示するばかりでは、県教委の存在意義が問われものと考えます。

現場の窮状をよそに矢継ぎ早に指示される様々な教育施策のおかげで、現在は「カリキュラム・オーバーロード(教育課程の過積載)」とも言い表される状態が教員と子どもたちを責め苛んでいます。さらに昨年末に、指導内容は減らさないまま授業時間の短縮方針を織り込んだ学習指導要領の改訂案が中教審に諮問されました。このままでは非認知能力の育成どころか主体的・対話的で深い学びの実現は一層難しくなると私たちは憂慮しています。(以上)

2025.1.27