群馬県教委3月会議を傍聴して
・教員の募集・選考・採用について
令和8年度採用(令和7年度実施)公立学校教員選考試験の募集要項を公開・配布する旨の報告がありました。
小中学校370名、高校85名、特別支援学校45名、合わせて500名を募集(前年度同人数)するとのことですが、その募集要項を読んで、気になったことがありました。出願資格や出願方法・選考試験・採用までのスケジュールなどは細かく記されているものの、採用後の教員としての業務内容がみあたらないのです。もちろん、多岐にわたる教員の仕事を簡単に記述するのは困難でしょうが、このままでは仕事内容を明かさない怪しい求人広告と同じです。なぜこんなことがまかり通るのでしょう。
企業などの求人者が求職者を募集する際に公共職業安定所などに提出する求人票では、「業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」とする法律(職業安定法)で最低限記載すべき事項が定められています。加えて、昨年4月からは従事すべき業務の変更の範囲、就業場所の変更の範囲などの事項まで募集時に明示することが義務づけられました。働く人の生命と生活、権利を守るためと考えられます。
しかし、この募集要項は群馬県の公立学校教員を募集するのに必要な最低限の条件さえも満たしていません。さらに、選考試験の結果良好と判定された人(第2次選考合格者)は、その時点で次年度当初からの採用がただちに決定するわけではないのです。第2次選考の合格とは、一年間有効な採用予定者名簿に名前が載るというだけのことで、校種や教科の欠員状況により受験した募集区分以外での採用となることさえあるようです。
正規採用教員のこのような高飛車な募集・採用方策から、その他の臨時的任用教員や非常勤講師の募集・採用に関する事前告知や処遇提示の状況がどうかは容易に想像できます。また、このようなやり方がいつから始まったのか不明ですが、かつての高い競争倍率を背景にして、受験する側の視点を蔑ろにしたまま、選考する側の論理の圧倒的優位性が現在に至るまで連綿と続いていることは明らかです。
これでは、一方で高校生まで動員した教職の魅力発信のような涙ぐましい努力があっても、教員を希望する人が増えるとは到底考えられません。
ちなみに、近隣自治体の募集要項も似たり寄ったりですが、校種別の初任給や各種手当、勤務時間さえも記載していない群馬県の募集要項の粗略さは際立っていて、前例にあぐらをかく県教委の手前勝手な募集方策がはっきりうかがえます。
私たちは、2024年10月のちょこっとコメントで群馬県教員採用選考試験の臨時的任用教員のアンバランスな合否状況から、できるだけ低コストで教育現場をまかなおうとする群馬県及び県教委の姿勢と、教育への公的支出額が全国平均にも及ばない現状を強い怒りを持って指摘しました。
子どもたちと教員の犠牲の上に成り立つ学校という砂上の楼閣が、県の無策によって今まさに崩壊の危機にあることを、改めて県民の皆さんへ訴えます。
・「エージェンシー」について
最近の県教委会議で頻出する言葉に「エージェンシー」があります。曰く、「彼らのエージェンシーが存分に発揮されている様子が伝わってきて~」、「生徒がエージェンシーを発揮して自分たちでこの歌を歌いたいと言った~」、「エージェンシーを発揮している子どもたちが主語となるような学びを~」、「先生方が子どもたちと一緒にエージェンシーをお互いに発揮しながら~」等々。
「エージェンシー」は、OECDの定義では「変革を起こすために目標を設定し、振り返りながら責任ある行動をとる能力」ですが、ぐんま教育ビジョン(2024年~)で「自分と社会をより良くしようと願う意志や原動力」と群馬独自の再定義をわざわざした言葉です。でも、今のところ県教委会議では「意欲」・「やる気」の意味で用いているようです。
県教委の皆さんが子どもたちの活動に関心を持ち時に賞賛することは、その職責上意義あることですが、子どもたちの目立った活動の一部を取り上げて「エージェンシー」に象徴されるぐんま教育ビジョンの具体的成果と論うことは、あまりに楽観的であり自画自賛ともとれます。彼らには今こそその職責に応じた「エージェンシー」を発揮し、過酷な学校現場の実態を直視した上で、解決策を真摯に議論することを求めます。
(以上)
2025.3.28