群馬県教委2月会議を傍聴して
・群馬県新年度予算案について
2月4日、新年度予算案が山本群馬県知事から示されました。「こどもまんなか推進&新産業創出加速予算」と自ら名付けた予算案では、子育て圧倒的No.1と自負するように、子ども医療費等補助(55.3億円)や私立学校教育振興費補助(57.3億円)、私立高校授業料支援補助(4億円)など子ども関連の予算付けが強調されました。
教育委員会関連の主要事業では、小中学校等デジタル基盤整備(5億円)、公立小中学生1人1台端末等更新(49.8億円)、沼田高校武道場等整備(8.2億円)、伊勢崎特別支援学校整備(17億円)、県立学校体育館空調設備整備(13.6億円)、ぐんま教育ビジョン実現PJ(6.4億円)、スクールサポートスタッフ活用(7.6億円)、スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカー配置(3.4億円)、ぐんまDXハイスクール(1.4)億円、地域部活動改革推進(1.1億円)などが並んでいます。(県提示資料より1億円以上の事業を抜粋)
群馬県では教育への公的支出が全国平均に及ばない(文科省・教育支出調査による)現状ですが、このような取組が県内の教育環境を向上させることにつながることを心から願っています。
金額では上記の事業を下回るものの2023年度から毎年計上されている非認知能力の評価・育成事業は新年度予算案では5,000万円が計上されています。この非認知能力の評価・育成事業については、当ちょこっとコメントでもこれまでに二度取り上げ(2023年4月・2024年12月)、その方法や効果どころか概念さえ不明確な事業を無理矢理持ち込むことで、教育現場にさらなる負担と混乱をもたらすだけと批判をしてきました。
2024年4月にはOECDによる社会情動的スキル(SSES)調査(2023年実施)の個人情報を含む回答データ(群馬県の高校生3,528人分を含む)が、一時ネット上に掲載されたことがありましたが、杜撰な情報管理が露呈したこの調査には、これまでに多額の調査・分析費用が投じられ、新年度予算案でもその分析費用が350万円計上されています。日本で唯一群馬県がこの調査に参加していることの意義が、今まさに問われています。
また、SSES調査と並びスコットランド(sses調査には不参加)との共同研究もこの事業の軸となっているようで、今年度に引き続き新年度予算案でも3,500万円ほどが計上されています。
学力や知識量で測定される認知能力だけでなく、気ぜわしい現代社会における心の保ち方などを含む非認知能力への期待が高まる背景は充分に理解できます。しかし、群馬県ではSAH(生徒エージェンシーハイスクール)指定校での先駆的実践研究や国際バカロレア導入の動きと併せ、その期待が学力向上との相関関係や、地域や社会で使える人材育成に利用可能かなどの文脈で語られることが、県教委会議でも特に目立ちます。
私たちは、県主導による「個人が社会のためにエージェンシーを発揮することを求める非認知能力の育成」が、多様さを生かして人格形成を図る今日の社会の動きとはまるで真逆の、画一的な価値のみを子どもたちに押しつけることになりはしないかと危惧します。少なくとも、今のままでは「自分で考え、自分で決めて、自分で動き出す」ことを標榜した群馬県教育ビジョンの趣旨とも大きく乖離した官製パフォーマンスです。
また、巨額となるデジタル端末の更新を始めDX関連の予算額を見る限りでは、ハードとソフトの更新を織り込んだITビジネスに行政が取り込まれた観があります。2月20日付上毛新聞の論説でも「~効果が未知数なだけに進行中から費用対効果を厳しく点検し~効果が出なければ、撤退する仕組みも欠かせない」と警鐘を鳴らしています。この際、教育現場での利用実態の把握を含めた費用対効果の検証がぜひとも必要です。
ちなみに、2月4日の新年度予算案を発表する記者会見では、子どもたちに囲まれた山本知事とおぼしき男性の横顔が大写しになったスライドを示しながら、「ちなみに、この写真いいでしょう。こんなこと言ったらまた身内を褒めるようですけど。群馬県職員センスいい。資料作るの、ほんと上手になってきたと。すいません、なんか親ばかみたいなこと言って。」と語る場面がありました。これに対する記者の反応は不明ですが、画面のこちら側では、「親ばか」どころか今回の予算案は、「こどもまんなか推進&新産業創出加速予算」ではなく「知事まんなか推進予算」とした方が良さそうだ、との感想を持ちました。
(以上)
2025.2.20