群馬県教委8月会議を傍聴して
・東部地区の教育行政懇談会で、「働き方改革は学校ではやり尽くした感がある一方、地域連携事業では未着手」「学校から地域に事業の縮小・見直しは言い出しにくい」「『提言R5』による事業見直し・縮小の地域・保護者への発信は、学校が行うと誤解が生じる」などの意見があったことが、参加した委員から紹介されました。
業務効率化への意識の高まりは、慢性的な人員不足に喘ぐ学校内では必然的な流れですが、保護者や地域にそれを理解してもらうのは難しそうです。現に、「提言R5」に則り地域行事への教員の不参加を告げた小学校に対して、「学校が協力してくれないなら、こちらも学校に協力しない」との態度を示す近くの町内会もあるほどです。
これまでいかに教職員が本務とは別の業務をたくさん請け負ってきたかと共に、いったんはじめた業務の廃止・縮小が難しいかがわかります。加えて、コロナ後の復活・再開業務が増えているため、多忙化解消はさらに遠のいているのが現状です。これでは、「子どもたちとしっかり向き合う時間を増加させることで、教育の質を高め豊かな学びを届ける」という「提言R5」の趣旨と、前例や慣例にとらわれて一向に廃止・縮小が進まない校内外の業務の狭間で、多くの教職員がさらに多忙となり「立ち往生」することは目に見えています。
教員個々の「良心・良識」に凭れかかり、労働時間管理や対価補償をしてこなかったこれまでの教育行政のツケが、教職志望者の減少や若年離職者の増加など学校を取り巻く喫緊の課題として、今まさに噴出しています。
・4月に行われた「全国学力・学習状況調査」の結果が報告されました。実施主体である国立教育政策研究所の教育課程研究センターが結果を既に公表していますが、今回の報告はそれに群馬県教委としてのコメントを付け、今後の取り組みを加えたものです。
昨年度、この調査が「やりっぱなし」になっているとの指摘が委員から出され、当「ちょこっとコメント」(2022年6・8月版)でも実施意義への疑問を投げかけました。
県教委では、教科分析部会に加え今年度より質問紙調査分析部会と調査活用研修会を新設し、成果と課題を洗い出して県下全体で授業改善に取り組むとのことです。ただ、膨大な労力を費やすわりに科学的な効果も曖昧で経年比較や分析もままならないこの調査は、毎年その結果が県別順位の一点においてのみ衆目を集めるのが実態です。これをある委員は「報道では、どこに勝ったとか負けたとか、平均より良かったとか悪かったとかそんなことばかり」「県民の意識・興味がそこにしかないのか、報道の仕方がそういう報道だからそうなのか」と苦言を呈します。
しかし、この調査結果を都道府県別(市区町村別)学力ランキングの指標と見るのは、一般県民や報道機関だけではありません。県教委の今回の報告書でも全国平均との比較の記述ばかりが目立ちます。近隣他県との比較や全国順位の明示は表だってできないのでしょうが、この報告内容では一般県民や報道機関の興味の赴く先も自ずと明らかです。
さらには、この程度の分析で指導改善を迫られる現場の先生にとっては堪ったものではありません。そもそも、中教審でも調査方法に疑義が出されるこの調査結果が、子どもの学力を公正に示すものとして一人歩きし、難易度の異なる設問同士の正答率を単純比較して云々するなどの間違った分析さえ多く見受けられます。
群馬県非認知教育専門家委員の中室牧子氏をはじめ多くの研究者からその無効性が指摘されているこの調査は、現場にとって負担が大きいだけであり、群馬県教委としては多忙化解消の観点からも即刻廃止を文科省に具申すべきと考えます。
・これまで「教育委員会の点検・評価」は非公開議案として審議されていたようですが、今年度は傍聴者に資料は配付されなかったものの公開議案として審議(質疑なく現案通り決定)されました。
開かれた県教委の兆候として評価したいと思います。ただ、この膨大な点検・評価報告書作成に係る事務局職員の労力を考えると、各学校でも教職員によって行われる同種の作業の苦労と実効性の乏しさが想起されます。形ばかりのPDCA構築のために費やされる膨大な労力を、他の有効な作業に振り向ける工夫も、多忙化解消の観点から必要だと考えます。
(以上)
2023.8.26