群馬県教委月会議を傍聴して

・前回の8月定例会議で話題に出た「全国学力・学習状況調査」の活用研修会の資料が県教委のWebに掲載されました。

 昨年度からの問題解説動画を含め、「やりっぱなし批判」に抗する県教委の積極的な取り組みと捉えることができます。国立教育政策研究所教育課程センターの報告書にある「解説・調査結果・授業アイデア例」及び「学習指導の改善・充実に向けた説明会」を引き継ぐ内容ですが、群馬県としての工夫も多少見られます。ただ、オンライン配信とはいえ新学期の多忙を極める中で活用研修会の内容をじっくり視聴する暇は、現場の教員にはなさそうですし、ぎっしり詰まった年間指導計画の中に「全国学テ」活用のための時間を入れることもできないでしょう。

・千葉で開かれた1都9県教育委員協議会の報告が、参加した委員からありました。「リカレント教育(*1)の推進」をテーマにした千葉県の取り組みを紹介する中で、「リカレント教育」への教育委員会としての関わり方が今ひとつ見えてこない、との印象を受けたようです。

 確かに、この報告を聞く限りでも従来の県の取り組みとの違いがはっきりしません。2021年頃から経産省の鼓吹する「リスキリング(*2)」に対して大規模な支援を打ち出した岸田首相の所信表明(2022年10月3日)を受けて、「リカレント教育」を推進する厚労省が合従連衡的に反応し、文科省では中教審の次期教育振興基本計画(2023年3月)に「リカレント教育」の一項を加えたようです。このような経緯から、県の知事部局やハローワークのこれまでの取り組みと教育委員会が、今後どのように業務分担・連携を図るかは未知数です。「(新しいこの取り組みを)体系化すると(知事部局・ハローワークと教育委員会との)繋がりはどうなるんかなあと思った」と委員が首を傾げるのも無理からぬことです。そして、大企業や経済団体の意向が色濃く反映されたこの施策が、少なくとも、国民の日々の暮らしを改善するためのものでないことは容易に想像がつきます。次々繰り出す施策に即応して成果を出すことを現場に求める今の体制は、日本社会をさらなる深みに陥らせるばかりです。

 このほか、この協議会で次期教育振興基本計画に掲げられた「ウェルビーイング(*3)の向上」に関する次のような発言が紹介されました。「計画を作る中で、ウェルビーイングの意味が一般の人にはわからないんじゃあとの意見があったが、それに代わる言葉がどうしても見つからないのでこれにした」という文科省政策課企画官の発言ですが、他の言葉に言い換えできずいちいち語義を説明しなければならないような言葉が流布することはあり得ませんし、ましてや、この施策の内容が多くの人に理解されることも受け入れられることも到底ないでしょう。

 そもそも、国民の居心地の良い(=Well)状態(=being)をつくることは国や自治体の当然の責務であり、「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」などと、個人の感覚や生き方をあれこれ国から指図されるいわれはありません。まさに、この居心地の悪さは、「ウェルビーイング」とは対極のものでしょう。

・この機に、次期教育振興基本計画(答申)の「概要」を眺めると、上記の言葉以外にも業界用語が散見され計画自体の浮遊感が漂います。曰く、「VUCAの時代、社会的包摂、Society5.0、日本発の調和と強調、探究・STEAM教育、SDGsの実現に貢献するESD、PBL……(註略)」さらに、「概要」にある「グローバル化する社会の持続的な発展に向けて学び続ける人材の育成」や「『未来への投資』としての教育投資を社会全体で確保」という記述からは、「教育とは、社会が発展するための人材育成の手段」との考え方が明らかに透けて見えます。

 教育の「当事者」のことを、ビジネス用語で「利害関係者」を意味する「ステークホルダー(子供含む)」とわざわざ表記するところにも、人を材料と見なし効率や利潤追求を念頭に置く経済本位の考え方が匂っています。

(*1)リカレント教育=(Recurrent)「学校教育からいったん離れたあとも、それぞれのタイミングで学び直し、仕事で求められる能力を磨き続けていくこと(厚労省)」⇒自主的・個人主体・就業と併存せず・学び直し・キャリアアップ・生涯学習

(*2)リスキリング=(Re-skilling)「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること(経産省)」⇒受動的・企業や雇用主主体・就業と並行・従業員職能開発・再教育(和製英語?)

(*3)ウェルビーイング=(Well-being)「身体的・精神的・社会的に良い状態にあること。短期的な幸福のみならず、生きがいや人生の意義などの将来にわたる持続的な幸福を含む概念(中教審)」⇒イタリア語の「Benessere(ベネッセレ)健康的な・幸せな」が始源。

(以上)

2023.9.19