群馬県教委3月会議を傍聴して

・教育委員の卒業式への参加について

 今年も県立学校卒業式での生徒の様子や答辞の内容、管理職からの情報などが、各委員から報告されました。私たちぐんま教育文化フォーラムでは、教育委員の式典参加について、その教育的意義のないことを以前から指摘してきました。教職員の多忙化解消のための「提言R6」では「式典の縮小・来賓の精選」を謳っているにもかかわらず、教育委員の式典参加を当たり前のように続ける県教委には、自己検証の影すら見当たりません。教育委員の活動に資するにも、一過性の式典参加ではほとんど意味はなく、学校現場に支障がないように普段の教育活動をそっと見守る方がずっと有効です。

・不登校児童生徒への支援について

県内の不登校児童・生徒の支援施設へ訪問をした委員からの報告がありました。昨年10月に公表された令和4年度の文科省調査では、県内の不登校児童・生徒数は小学校1,497人(前年度1,284人、以下同様)、中学校2,885人(2,497人)、高校874人(682人)で、全体比は小学校1.65%(1.38%)、中学校5.85%(4.98%)、高校2.36%(1.79%)と、いずれの数値も過去最多です。この調査では、不登校に至る要因として「無気力・不安」を含む「本人に係る状況」が過半数を占めるとする結果を示すのみで、不登校児童・生徒が増え続ける原因については文科省・県共に全く言及がなく、分析をしているかどうかさえ不明です。

 市町村による適応指導教室などでの教育支援は、個々の学校だけでは対応が困難な状況から始まったものですが、今後ますます不登校が増加することが懸念される現在の状況に対して、保護者へのケアを含めて福祉分野やフリースクールとの協力・連携など、県教委が全県的な見地から具体的な施策を進める必要性が高まっています。

しかしその一方で、ある委員からの「一番心配なのは、社会人になるときに引きこもっちゃうと、社会的損失がものすごく大きい」「不登校でも全然構わないんだけども、社会に出たときに引きこもりにならずに普通に出ていけさえすれば社会的損失ってほとんどない」という発言には、実情に対する圧倒的理解不足が見えます。社会的損失の多寡だけを問題として、社会にとって有用な人材か否かで個人を評価する酷薄な企業論理が連想されるこのような発言により、県教委が不登校対策に今まで以上に及び腰にならないか懸念されます。

・教職の魅力発信動画公開について

 教員選考試験の受験者数低迷の打開策として、数年前から懸案だった「教職の魅力発信動画」がようやく完成し、Youtubeでの発信が始まったことが報告されました。「学人」(「まなびんちゅ」と読ませる)のタイトルで始まる数本の動画は、公開後約一ヶ月で千回以上視聴され、いいねボタンも数名が押しています。しかし、公開動画につきものの視聴者からのコメント投稿は、この動画ではできないようです。理由は不明ですが、SNS上の「#教師のバトン」が文科省の意図とは逆に、過酷な労働環境告発の場となった前例が念頭にあるのでしょうか。

 いずれにせよ、学校人事課渾身の動画に登場する若い先生方の爽やかなコメントは充分に魅力的ですが、一方向的な動画視聴では、教職に対する不安が払拭されることはまず考えられません。

・群馬県教育ビジョン策定について

 策定に先立つ「原案」に対して、パブリックコメントで私たちの考えを示しましたが、特に、「エージェンシー」の群馬県独自の定義「人が誰しも生まれついて持っている自分と社会をより良くしようと願う意志・原動力」については、強烈な違和感があります。この「エージェンシー」の解釈では、「自律した学習者」の育成を目指す教育が、より良い社会構築のためになされることを目標としていることになるからです。私たちが学ぶのは、社会のためではありません。

        (以上)

2024.3.29