群馬県教委6月会議を傍聴して
・「教職員の多忙化解消に向けた現状と課題についてー『提言R5』を受けてー」をテーマに県内4教育事務所長との意見交換会が行われ、各教育事務所長から「多忙化解消に向けて前進している」「新任校長にとって提言R5は意思決定の拠り所」などの報告があったとのことです。
他県の教育委員からも高評価を得ているというこの提言R5ですが、改めて読むと「子どもたちに豊かな学びを届けるために」という副題のもと、廃止・縮小を推奨する業務が列挙されています。特に、「学校向け『提言R5』」では、裏面に廃止・縮小・ICT化が実施・改善・検討されている業務が棒グラフで示されています。廃止・縮小の声が多い順に示されたらしいこの一覧表から、いかに教員の業務が多岐にわたるかがわかります。それと共に、教員が本来果たすべき業務とは一体なにかを考えざるを得ませんが、この提言R5にはそれについて何も示されていません。
「子どもたちとしっかり向き合う時間を増加させることで、教育の質を高め豊かな学びを届けるために、前例や慣例にとらわれることなくすべての業務を廃止・縮小・ICT化の対象とする」という意気込みは伝わってきますが、その業務仕分けの根幹が「豊かな学び」や「教育の質」という肌触りの良い抽象語で示されるだけでは、教員の「良識・良心」に委ねられた仕分けが遅滞するのは当然です。
この「提言R5」で、廃止・縮小の具体例を列挙したことを「英断だ」と賞賛する声もありますが、教育事務所長や教育委員のもとに届けられる報告ほどには教員の多忙化解消は前進していませんし、業務廃止・縮小の動きがひたすら緩慢なのは、教員自らの「良識・良心」が問われるかのように現場に丸投げされているからに他なりません。
さらに、今年度はコロナ後の復活・再開業務が増えているため、多忙化解消への道はさらに遠くに霞んでいます。この認識が教育現場以外の人にほとんど共有されていない現状では、「提言R5」はただの画餅に過ぎません。
・教員選考試験の応募状況が報告されました。全体の倍率は昨年比-0.3ポイントの3.6倍でした。直近10年間で最少だった昨年度より応募者が7名増えたことをもって「減少に歯止めがかかった」と言い切る担当課長の分析はどうにも理解しがたいものですが、今回新設の「大学等推薦特別選考」に110名が応募し、「臨時的任用教員等経験者特別選考」に608名が応募していることには驚きました。推薦(上限枠なし)を受けた来春卒業予定の大学生による応募者数と、臨時的任用で教職に就いている応募者との圧倒的不均衡が際立ちます。今回110名の現役大学生が特別選考に応募したことを担当課長は「広報の力」と胸を張りますが、教員不足が深刻化している中で正規採用を目指す多くの臨時的任用教員によって教育現場が支えられている現状は、そもそも異常事態です。
不安定な雇用の上に成り立つ教育現場の現状をよそに、「若い人の応募が減っていて危機感を持っている」との昨年の担当課長の言葉を、彼ら臨時的任用教員はどのように聞いたでしょうか。すでに言い古された感のある「教職のやりがいと魅力の発信」はさすがに今回の会議では出ませんでしたが、県教委人事担当責任者による先述のような無神経な発言が「教職の魅力」を損なう原因になっていはしないかと憂慮します。
さらに、昨年度比で小学校の応募者が増え中学校の応募者が減った理由を委員から問われて、小学校教員免許の取得可能な大学が増えたため、と答えた県教委事務局側出席者がいました。文科省の方針変更により全国で2006年から徐々に小学校教員の取得可能な大学数は確かに増えているものの、それが今年度の小学校の応募者数の増加(昨年度比!)理由と考えるのはあまりに無理があります。
また、委員から応募者の県内外の比率を問われても、資料が手許にないため答えられない担当課長の有様を見ると、危機感や問題意識の欠如以前の問題として県教委の存在意義が問われる事態ではないでしょうか。
・第12号議案で来年度の高校の生徒募集定員について、沼田高校・富岡高校の各1学級減が示されました。中学校の卒業見込者数や過去の志願者数等を総合的に判断してとのことですが、一言の質疑もなく審議は終了しました。
昨年6月の「ちょこっとコメント」でも触れたとおり、生徒の急減期はすぐそこまで迫っている中で、何の議論もなく学級減が粛々と行われることをとても心配します。昨年に引き続き一倍を下回った今春の全日制高校入試では、半数以上の高校が募集定員を下回り、群馬の公立高離れの傾向は一層顕著です。その一方で、「第2期高校教育改革推進計画」(2021年策定)では「農業科、工業科等については、より充実した学びを実現するため、学級定員の引下げについて検討します」とあり、今後の教育環境の維持には「学級定員引き下げ」が必須なことを県教委自体も認めています。それにもかかわらず、学級減という場当たり的な対処法で当面しのごうとする県教委の施策には、問題先送りにより自らの責任追求を回避する姿勢しか見当たりません。
他府県の例にあるように、これから群馬県でも募集定員に達していない高校から順番に問答無用の整理・統合を強行するのではないかと危惧します。県教委には、教育現場の子どもや教職員の声に丁寧に耳を傾けながら、少なくとも三十年後の将来を見据えた教育行政を策定しようとする気概と地に足の付いた実践を強く強く求めます。
・これ以降の第13~16号議案は非公開議案でした。 (以上)
2023.6.27