群馬県教委4月会議を傍聴して
・今年度最初の会議のためか、清新な雰囲気とともにちょっとした不手際が随所に見受けられた会議でした。委員の質問に答える担当者の様子からも、前任者からの引継ぎもそこそこに4月当初から担当職務のプロとして精励する県教委職員のご苦労が拝察されます。ただ、県の教育施策を審議する重要な会議なのですから、担当者は正確な情報と客観的な問題意識による周到な準備をした上で会議に臨むことが必要です。
・今回の会議でも、各教育委員から県立学校入学式への参加報告が例年通りありました。すでに何度も指摘しましたが、「教職員の多忙化解消のための『提言R5』」に則り、「教育委員の式典参加」は即刻中止すべきです。喫緊の課題であるはずの「教職員の多忙化解消」が、こういう機会に県教委の本気度の薄さとして映ることは県教委としても決して本意ではないでしょうし、学校の沿革紹介などを主とした委員の報告を聞く限りでは、参加はしなくても一向に支障はなさそうです。
・すでに報道のあった「非認知能力の評価・育成事業」について、担当の「学びのイノベーション戦略室長」から改めて報告がありました。専門家委員会(中室牧子座長)の設置と研究連携校(横浜創英中高)の紹介、県内の研究指定校(中高6校)の紹介、OECDのSSES調査への県下全高校の参加などがその内容です。
今回の会議では、「(学力向上が自己目的化している現状と同様に)非認知能力の育成が最上位の目的と捉えられてしまう状況になるのでは」との危惧や、「(非認知能力の育成に有効とされる)幼児教育や小学校低学年へ、今後展開の見込はあるのか」との質問が複数の委員からあり、教育長からも「非認知能力調査の打ち出し方によって、県民からちょっと違って理解されるといけない」(実際、参加していた委員の非認知能力に関する誤解も表面化しました)との発言がありました。
現行の学習指導要領で示された資質・能力の内「学びに向かう力・人間性等」を育成するためとして、近年日本でもクローズアップされるようになった非認知能力ですが、そもそも1960年代に米・経済学者J・ヘックマンが貧困家庭を対象に行った調査と実践研究のための幼児期教育がきっかけとのことです。公教育の持つ大きな使命として現在拡大しつつあるとされる教育格差を解消するために、非認知能力に含まれる社会情動的スキルを調査・数値化することで、教育格差の背景にある社会問題や教育課題を洗い出すことは大切なことと考えます。
ところが、「日本で群馬が唯一参加」「群馬モデルの確立」「『始動人』輩出」などの文字が踊る今回の資料からは、「グンマー興し」をねらったけたたましいだけの気負いや「使える人材」育成を求める生々しい雰囲気ばかりが漂ってきます。さらに、県教委は研究指定校に茫漠とした「自主自律的な取組」を求め、専門家委員と連携校の知見からの指摘を加えた上で、得られた成果を全県の学校に横展開する構想のようです。
これでは、社会的情動スキルの評価・育成方法さえ確立されていない現状で、教育現場にさらなる負担と混乱をもたらすだけでなく、委員の危惧する「非認知能力育成の自己目的化」や非認知能力に対する県民の誤解も免れ得ません。また、連携校の知見を生かすためとして非認知能力育成の対象を幼・小ではなく中・高にした不自然さは、「国際バカロレア」認定を念頭に置いた高校再編への布石とも推察されますが、「誰一人取り残さない」ことを目指すべき公教育の施策としてはピント外れというほかありません。
現状の教育格差を縮小しすべての子どもたちに豊かな学びを提供するために、「特定の優れた生徒のための学校」作りよりも「地域の誰もが安心して通える学校」作りを最優先に考えるべきではないでしょうか。
・ある委員から、高校の後期入学者選抜の英語科得点分布に二極化傾向が見られる原因についての質問がありました。担当課長は「以前からこの傾向があった」として「もちろん理由は明確にはわからない」としつつ、「習熟度の差で苦も無く出来る者がいる一方で全くお手上げの者がいることが影響しているのかもしれない」と答えました。「なぜ、ふたこぶラクダ分布になるのか?」との問いに「よくできた人と全くできなかった人がいるから」ではもちろん答えにならないのですが、問題の特性と習熟度の差についての認識はありながら、その先にある分析と対策が県教委として全く行われていないことがわかります。背景にある状況分析と作問段階における配慮は県教委が行う他はなく、「入試は県教委の専権事項」として他からの声に耳を貸さなかった県教委ですが、問題意識の欠落と教育現場への責任丸投げ体質を象徴している一場面でした。
得点の二極化が教育格差を示すものと捉え、根本的な解決の道を探るための責任が県の公教育を主導する県教委にはあります。少なくとも、何かにつけて「PDCA」を現場に求める県教委こそ「PDCA」に自ら真摯に取り組むべきでしょう。
・第1~6号議案中、非公開の第5・6号議案以外は、すべて質疑なく全員一致で承認されました。 (以上)
2023.4.30