群馬県教委月会議を傍聴して

・8月5日の中部地区教育行政懇談会と8月1日の太田地区いじめ防止フォーラムの件が、参加した委員から報告されました。「就学支援の現状と課題」をテーマにした教育行政懇談会に参加したある委員から、「特別支援を必要とする子どもと担当者の人数のアンバランス」を指摘する声がありましたが、現状の課題を踏まえた積極的な発言と捉えます。これを受けて県教委が、現行法(学校教育法及び義務標準法等の教職員定数)の具体的な改善提言を国に対して行ったり、実態に沿った弾力的運用を行ったりするなど、県独自の教育施策を早急に展開することを望みます。

・7月27~29日の教育長及び次長(指導担当)による広島県視察については、現在世間の耳目を集めている平川理恵広島県教育長の言動も含めた視察内容と成果の報告がなかったことが残念でした。

・各所属長からの事務報告として、「令和4年度全国学力・学習状況調査結果について(義務教育課)」・「『自殺の危険が高まった生徒への危機介入マニュアル』の作成について(高校教育課)」の2件の報告がありました。

・上記の内「全国学力・学習状況調査結果」については、会議時間の多くがこの件に費やされました。ただ、担当課長からは群馬県と全国の平均正答率に差のあった設問に関する報告が大半を占め、委員からも全国傾向や他県との比較に関する発言が中心でした。そもそもこの調査については、2007年度の実施以前からその有効性を疑問視する声が教職員や教育研究者から多く挙がっていましたが、中教審の「全国的な学力調査に関する専門家会議」でも「毎年異なる問題では、年度間の比較ができない」「現在の設問・質問では、子どもと学校の状況と学力の関係が把握できない」「全国や都道府県・市町村間の平均正答率の比較による分析が中心」などの課題が、近年になって指摘されています。文科省では、改善策の一環としてCBT化(Computer Based Testing=コンピューターを利用した試験の総称)を進めようとしていますが、現実的な課題解決には至っていません。

 そのような情勢下で、いまだに全国平均や他県との比較の話題に終始する本会議の議論は、文科省でも危惧をする「数値データの単純な比較や序列化、過度な競争」を煽るものと受け取られかねません。教育長の「平均だけの議論ではなくて、子どもたちがどのように伸びているかを議論すべき」という発言は貴重ですが、その反面で、「国語の勉強が好き」の回答率だけを情緒的にむやみに称揚するのは早計でしょう。また、ある委員からの質問に対する担当課長の回答から、調査結果に関する統計学的な手法による客観的な分析や事後の検証が行われていないことが推察できました。ただ、これは群馬県に限ったことではなく、他の都道府県の調査結果報告でも同様のことがうかがわれます。文科省から提供されるデータだけでは、この調査の趣旨である「教育施策の成果と課題の分析と改善」「教育指導の充実や学習状況の改善」「教育に関する継続的な検証改善サイクルの確立」を、各地方自治体教育委員会や学校が個々に行うのは、やはり無理なのでしょう。むしろ、膨大な個票データを含むデータの貸与を受けることのできる大学等の教育研究者により精細な分析・検証で有効に活用されることが、莫大な税金と労力が費されたこの調査のせめてもの実施意義ではないでしょうか。

・「自殺の危険が高まった生徒への危機介入マニュアル」は、近年高校生の自殺者が全国で増加傾向にあることと、2019年2月に発生した県内高校生の自殺を受けて諮問された「いじめ問題等対策委員会」からの答申により「自死予防に係る取組の充実に向けた検討委員会」が作成したものです。

 同様のものは、文科省が2009年に出した「教師が知っておきたい子どもの自殺予防」があります。この内容を、「自殺の危険にいち早く気付き迅速かつ適切に対処する段階」としての「危機介入」に焦点を絞り「マニュアル」としたもののようで、あちこちに「教師が知っておきたい子どもの自殺予防」の記述が引用されています。「自殺予防」・「早期発見」・「初期対応」・「継続的な支援」からなる本編に続き、特別編「自殺未遂事案が発生した際の学校の対応例」、「ケース会議の進め方」が記され、「巻末資料」として「担当業務例・「Q&A」・「関係機関連絡先一覧」があります。簡便なマニュアルとはいえ、作成に協力した専門家・弁護士・精神科医などからのメッセージも含まれた盛りだくさんな内容です。

 しかし、いくつか気になる点もあります。それは、このマニュアルに「いじめ」に関する記述がほとんどないことと、「精神疾患」と自殺との関連に誤解を生じやすい記述のあることです。前者は、作成の契機となった生徒の自殺のことを考えるとあまりにも不自然ですし、後者は、第2章「早期発見」の「3 解説」にある「『死にたい』の病理」にある記述内容と、「巻末資料」の「Q&Aコーナー」にある「Q 自殺を考える人には、精神疾患があると考えてもよいですか」というQ&Aの内容です。少なくともこのマニュアルには、教員が生徒の自殺関連行動に遭遇した場合、それが「正常な心理反応」なのか「発達障害による2次性行動」なのか「精神疾患による病的反応」なのかを、「冷静に評価する」方法についての記述は見当たりません。このマニュアルで「自殺」に関する誤解がさらなる誤解を生んでしまわないことを、切に願います。

・今回の審議議案は3件で、全て非公開議案でした。

(非公開議案は、「教育委員会の点検・評価について(総務課)」「群馬県教育職員免許法関係手数料条例の一部を改正する条例について(学校人事課)」「令和4年度社会教育功労者群馬県教育委員会表彰について(生涯学習課)」「群馬県社会教育委員の委嘱等について(生涯学習課)」でした。) (以上)

2022.8.31