群馬県教委月定例会議を傍聴して

・教育委員会会議の質疑について

 山積する課題に日々翻弄される教育現場とは裏腹に、今回の教育委員会議も教育委員と県教委事務局職員との悠長なやりとりが目立ちました。

 5月1・2日に高崎市で開かれた1都9県教育委員会全員協議会では、各都県の教育委員が持ち寄ったそれぞれの自治体の取組を紹介し合ったことが報告されました。教職員のウェルビーイング向上をテーマとした協議会だったようですが、そのテーマが内包する苛烈を極める教育現場の現状をよそに、各自治体が策定する取組計画の紹介を和気あいあいと行うことができたとの成果報告や史跡視察の感想、お膳立てをした本県教委事務局への謝辞が報告の内容でした。協議会とはいうものの、実際の施策などに携わることのほとんどない教育委員が集まって行う情報交換と相互の親睦がこの会合の主目的のようです。各都県が回り持ちで毎年開催するこの教育委員会全員協議会の意義、さらには教育委員会制度自体の意義について、改めて首を傾げざるを得ません。

 さらに、毎月行われる教育委員会会議は群馬県の教育施策の方向性を決める重要な会議のはずですが、教育委員からの基本的な質問に対する県教委担当者の受け答えに疑問を感じさせる場面が何度もありました。具体的には、部活動の地域連携と地域移行の違い、県内で特別支援教育を受ける児童・生徒数の把握状況、今春高校を卒業した生徒の進路状況の分析などでの質疑において、答弁する県教委担当者の明らかな認識不足や準備不足、根拠の薄い個人的見解の開陳などがうかがわれました。これが教育現場に身を置いていない者同士の他愛のないおしゃべりならいざ知らず、学校管理職を集めた会議や教職員に対する研修会でその一言一句を周知させる立場にあることを自ら任じている人たちの公的会議での発言なのですから、群馬県教育の今後がどうなるか大いに不安です。

 教育委員及び教委事務局職員は、毎月の会議において教育現場の実情を踏まえた本質的な論議をしなければ、その職責を果たしているとはいえない、と私たちは考えます。

・部活動改革について

 部活動改革について担当者から報告がありました。今年度は、文科省が定める地域連携及び地域移行の改革推進期間の最終年度でありながら、状況は遅々として進んでいないことは誰の目から見ても明らかです。文科省は来年度以降の6年間を改革実行期間と位置づけ、部活動の地域展開を進めるようですが、このような小手先の名称変更ばかりを繰り返すうちに、部活動を教員の仕事から切り離すという本来の部活動改革の柱がいつの間にか変容してしまうことを危惧します。

 そもそも、教育課程の外側にある部活動を、「子どものためだから」という殺し文句によって教員の犠牲の上に成り立たせ、これまで有形無形に利用してきたのは文科省と教育委員会です。さらに、スポーツ・文化関連の各種団体・企業による莫大な権益をめぐる駆け引きも、部活動改革の進捗を阻む大きな要因と考えられます。

 大人の都合による歪んだ競争意識が部活動を加熱させ、勝敗にこだわるあまりに子どもからスポーツ・文化活動の楽しさを奪ってきた現状を考えると、この際、部活動を学校教育から切り離すという一点で、国及び各自治体は部活動改革を断行すべき時にきているのではないでしょうか。

・デジタル人材育成施策について

 各戸に配布されるフリーペーパーに「デジタルを遊びつくせ!」とのタイトルで、Gメッセ群馬に今年6月にオープンするTUMO GUNMA(ツーモ ぐんま)の記事がありました。TUMOとは東欧アルメニア発祥のデジタル教育プログラムで、群馬県はデジタルクリエイティブ人材育成施設の拠点としてこの施設を中高生対象に無料で開放するようです。

 デジタル技術を学べる同様の施設として3年前に前橋駅前に開設されたtsukurunを今年4月に私たちは取材し、「育ちと学び」62号で詳しく取り上げました。高額なハード・ソフトを備えた環境には今後の学びの可能性を感じましたが、担当者からも「同様の施設が県内各地にできれば」との言葉の通り、すべての子どもたちが気軽に通える生活圏内にあることが公的施設の大前提です。その点で、TUMOもtsukurunもその受益者が都市部に限定された施設であることが問題です。今年3月に県立高校3校内に開設されたばかりのtsukurunサテライトが、事業者の選定等の理由で4月から閉鎖されたままなのも、公的施設としてその行方が大変気がかりです。

 (以上)

2025.5.28