群馬県教委月会議を傍聴して

・新型コロナの5類移行に伴う今後の教育活動について、教育長から「コロナ禍以前に戻るのではなく、真に必要な活動を回復し、多様な教育システムを取り入れる」との方針を学校に周知したとのことです。

 しかし、何でもコロナのせいにしにくくなった現在、旧来の姿への復帰は教育現場の大変強い潮流です。学校では「スクラップ&ビルド」どころか「ビルド&ビルド」が以前にも増して勢いを強め、生徒や教職員を苛んでいます。その一因として、見直しによる活動縮小が自らの評価を下げるのではないかという前例踏襲にこだわる管理職の姿勢が考えられます。

 今こそ、「真に必要か否か」の観点により様々な行事や日々の活動を根本から見直す千載一遇の好機です。県教委は、通知や説明による「周知」で事足れりとせず、正確な現状把握のもと、子どもや教職員にとって有効な「学校のスリム化」を後押ししてほしいと考えます。

・1都9県教育委員協議会で「教師不足」と「部活動の地域移行」について文科省からの行政説明があったとのことです。

 双方の話題とも新聞紙面で取り上げられない日はないほどですが、文科省は教員採用試験の前倒しを求め、来年度は6月16日の一斉実施を全国に要請することがこのほど報道されました。教師のなり手不足を補うために文科省が昨秋から有識者と協議を重ねた結果とのことですが、これを高く評価する反応はあまり見られません。

 多くの専門家や一般からの声にある通り、「教師不足」は教師が過酷な労働環境に喘ぎ離脱者も多数にのぼる現状が原因で、志望者減少もそれに起因します。採用試験の前倒しは、採用内定時期を早める民間企業への志望者流出を防ぐためと思われますが、根本的な原因解決とは次元の異なる対策であり、志願者を始め各所を大混乱させることが予想されます。

 群馬県教委は、試験を主催する団体の一つとして、安直で実効性のない変更を押しつける文科省に対し、再検討を強く具申すべきです。

・1都9県教育委員協議会では、群馬の「提言R5」を他県に紹介し優れた事例として高評価を得たとの報告が複数の委員からありました。

 確かに、群馬県教委のアイデアと覚悟を示す「提言R5」は、時には有効なアイテムですが、その効果には疑問もあります。多忙化解消を実感している声に触れたことは最近皆無ですし、「提言R5」自体を知らない教員もいました。さらに、「式典の簡略化」を推奨する一方で「教育委員の式典参加」を続ける県教委には、教育現場の実態把握や検証の姿勢が見られないどころか、真摯な自己点検すら行われていないようです。

 「教職員の多忙化解消」という提言の所期の目的を再確認の上、県教委には「PDCAサイクル」を自己の業務で回すことを求めます。

・ある委員が1都9県教育委員協議会で文科省担当者に「給特法を変える気はあるのか」との質問をし、「今後の検討事項」との回答だったと報告しました。

 自民党による「令和の教育人材実現プラン」で「教職調整額の増額」などを骨子とする処遇改善案が、中教審・文科省へ提言されたとの報道がありますが、文科省の「教員採用試験の前倒し要請」と同様、教員多忙化の本質から目をそらした内容の提言です。

 このプランに対しては「給特法のこれからを考える有志の会」を始めとする多くの有識者からも、その重大な欠陥を指摘する声が挙がっています。教員の多忙化は公教育を崩壊させるおそれがあることを、この「ちょこっとコメント」でも以前から指摘してきましたが、教員の多忙化解消を望む世論の高まりに対してお茶を濁す程度の待遇改善ではもはやどうにもならない状態にあることを群馬県教委も認識した上で、公教育を守るための県独自の施策の繰り出しに注力すべきです。

・今春公立高校卒業者の進路状況が担当課長から報告されました。

 全県的な(全国的にも)少子化・人口減少が指摘される中で、大学進学者率が過去最高(50.9%)だったことが強調されましたが、就職者率(18.9%)の減少傾向に関する背景分析が非常に緩く、問題の核心からかけ離れた認識にあることがわかりました。県内高卒求人倍率・求人数はコロナ下でも上がり続けた一方、就職数は減少しています。その理由を、担当課長は「コロナでインターンシップ・職場体験ができなかったため」と去年と同じ言葉で分析(?)をしていますが、これが全く的外れなことは多くの高校の教員が認めています。

 なぜなら、高校で行う「インターンシップ・職場治験」は、大学生の就活の一環である「インターンシップ」とはまるで異なり、中学校で行う社会体験学習とほぼ同意義です。そもそも、高校の「インターンシップ・職場体験」を受け入れている企業で、高卒求人を出しているのはごく一部に過ぎません。「インターンシップ・職場体験」が就職に結びつくと考える担当課長は、どうやら実情をご存知ないようです。

 真に危惧されるのは、大学進学により県外に流出する若者の動向です。県労働政策課資料(2019年)による推計では、高卒者の50%超の大学進学者中60%超が県外大学へ進学し、さらにその70%超が県外に就職している現状は、少子化に輪をかけた人口無限減少ループそのものです。県内経済界でも同様の分析をしているようですが、国公立大学現役合格を主軸としたこれまでの進路指導全般への猛省と再検討が必要です。

・第7~10号議案中、唯一の公開議案である第7号議案は、質疑なく全員一致で決定となりました。        (以上)

2023.6.1