群馬県教委11月会議を傍聴して
・来年度の高校入学生より学習用パソコンがBYOD(Bring Your Own Device=個人所有の端末利用)になることが報告されました。
群馬県では2020年度中に県立高校生徒全員に貸与による配備を完了しましたが、全国では現在も全員配備がされていない自治体がある(文科省調査より)中で、全国に先駆けて生徒全員への端末配備をした群馬県教委のGIGAスクール構想実現への強い意欲を感じます。それ以来3年間の活用事例は「Gunma Model Advanced」として集約・公表されています。その多くはChromebookにプリインストールされた特定のアプリの活用事例であり、教員に活用の際のヒントを与えてくれます。しかし、アプリの活用法だけでなく端末活用そのものに関する課題の検証は、県レベルでも国レベルでも充分に行われているとは言いがたい状況です。
今回のBYODへの転換方針は、貸与開始の時点から県教委から示されていたこととはいえ、それを来年度入学生や保護者に周知する今回のリーフレットの内容には、いくつかの疑問が浮かびます。
まず、「BYODになることで、好きなソフトやアプリを使うことができるようになり、探究活動等の新たな価値を生み出す学びが広がります」との表現からは、BYODによる優位性が強調されるあまり、これまでのChromebookでの労苦を尽くした活用実績の意義が蔑ろにされている印象です。
さらに、極めて個人的(パーソナル)な活動を自前の道具(パーソナル・コンピュータ)を使って行う「個別最適な学び」と、多様な人格が集い合う学校での「協働的な学び」とが混淆したまま生徒や教員に無理矢理求められている感がどうしても否めません。
そもそも、端末は学習支援の道具の一つのはずですが、それを使うこと自体が目的となってしまう危うさについては、多くの識者も指摘していることです。
しかし、このリーフレットでは「BYODこそが未来を切り拓く力を身に付ける方法」として強調され、端末使用の自己目的化傾向がますます強くうかがわれます。また、「持ち込むパソコンの機種は必要なスペックを満たせば自由です」とあるものの県立高校各校が推奨するOSは様々で、その内訳は「指定なし」34%、「Windows」26%、「Chrome」21%、「WindowsかChrome」18%、「WindowsかChromeかMac」1%です(各校発表内容を集計)。
リーフレットに示された「必要なスペック」とは別に、県教委WebPage上では「概ね販売から4年以内」「CPUは2020年以降に製品化されたもの」「バッテリーは8時間以上もつこと」との条件も示され、これをすべて満たすには新品の端末を購入するしかなさそうです。
自費購入に伴う家計負担増について県教委では「所得が一定の基準に該当する世帯に対して、購入支援金を検討中」とのことですが、詳細は現時点では未公表です。入学時の家計負担増への配慮は、最優先で明確にして欲しい問題です。
その一方で、11月24日の記者会見で宇留賀副知事からは「(BYODは)デジタル先進県を目指すために必要な手続き」として、県の施設に高性能な端末を整える考えも示されましたが、家の所得により生徒間で端末の性能に差が出る懸念は依然残ります。これまでと異なり多様なOS・スペックの端末が混在することになったら、教員が端末の使用法やトラブルの対応、保守・管理に逐一関わることはほぼ不可能でしょうから、端末を学校で一斉に利用する頻度が今より下がることも予想されます。
今回の会議で小島委員が「せっかく他県に先駆けて端末整備を行った群馬県なら、先駆的な提言を文科省にできるのでは」との発言には納得しつつも、現在の活用状況を鑑みると先駆的な提言やモデル事例、高性能な端末を使った先端教育の追求よりも、端末利用が効果的な場面とそうでない場面とを見きわめ、学校ならではの人間対人間の丁寧な学習環境をすべての生徒に保証することが優先されるべきです。
今回の県教委の指針では生徒のスマートフォンは学習用端末として認めていませんが、出欠管理や学習課題のやりとり、家庭連絡、情報収集などの端末利用でとどまるならば、むしろ、ほぼ全員の生徒が所有すると思われるスマートフォンでその役割は充分果たせるでしょうし、家計の負担も軽減されます。
・部活動の地域移行について、県教委健康体育課による全市町村教委への訪問と実態把握が報告されました。
移行の進捗は自治体により大きな差があり、「実態把握の方法に悩み」のある自治体もあるようで、実態把握もままならない現状では2025年度末までに移行を完了するという目標は到底実現不可能でしょう。その背景には、これまでの部活動が「ブラック部活」とも呼称される「教員のほぼ強制的ほぼ無償労働」により成立していたことが事実としてあり、教員の善意と犠牲にもたれかかったまま成果だけを利用してきた各校管理職や各種団体・教育委員会の無責任体質が問われているのです。
部活動の地域移行は、この極めて異常な状況に一部の現職教員が声をあげたことで広がった機運が醸成したものであり、教育課程外の部活動を学校から切り離すのは当然の流れです。これまで生徒や教員を有形無形に縛ってきた部活動をこの機会に一から問い直すことが、部活動の地域移行の本質的意義だと私たちは考えます。
(以上)
2023.11.30