群馬県教委2月会議を傍聴して
・昨年3月の「ちょこっとコメント」でも指摘したとおり、県教育委員が県立学校の卒業式などに来賓として出席することの教育的意味は何でしょうか。
前回紹介された教職員の多忙化解消のための「提言R5」でも、「『縮小』を推奨する業務例」の一つとして「式典の来賓の精選」が挙げられています。ところが、来る3月1日には例年と同様に教育委員の卒業式出席が予定されていることに心底驚愕しました。多くの小中学校ではコロナ禍のはるか前から式典への来賓招待を大幅に縮小しています。
教職員の多忙化解消を県教委が真摯に取り組むつもりであるなら、市町村教委や小中学校のこの動きを見習って県教育委員の式典出席は即刻中止すべきです。また、働き方改革実現のため毎月行っている「在校等時間調査」は、時間の増減だけで教職員の勤務状況が把握されてしまうきらいがあり、PC稼働時間以外の勤務状況や持ち帰り仕事などを含む過酷な勤務実態が反映されません。これでは、働き方改革実現に資するどころか、集計担当者の多忙化を促進するだけの調査です。
・教育長がほぼ毎月出かける県外視察では各地の先進事例を学ぶことが目的のようですが、県教委会議では行き先が報告されるだけです。公費を使ってせっかく学んできた先進的な教育手法や施策をせめて県教委内部で共有するためにも、会議の場で視察報告を行うべきではないでしょうか。因みに、昨年7月平川教育長の協力で視察が実現したとされる広島県では、県教委事業委託に関わる官製談合疑惑とその調査に伴う支出が多額となっていることが、現在全国の耳目を集めているところです。
・慶大中室牧子教授による「ぐんま教育フェスタ」での講演についての話題がありましたが、「事前申込不要」のはずのYoutubeライブ配信が、申込による限定配信のため視聴できませんでした。日時と条件が限られていては、多くの教職員にとってせっかくの有意義な講演内容を視聴するのが難しいのは残念なことです。
・先に報道発表のあった教員採用選考の変更点について改めて説明がありました。「大学推薦特別選考」や「小論文の廃止」などを主な内容とするものですが、受験者を一人でも多く確保するための同様の試みが全国各地でも見られます。国でも大学2年修了時の教員免許取得を言い出す始末です。
しかし、教員採用選考受験者が減っている原因解決が一向に進んでいない現状で、このような試みに対する一般の評価は一様に芳しくありません。この「ちょこっとコメント」でも毎回のように指摘していますが、受験者減少を止めるには教職員の労働環境を改善すること以外に有効な方法がないことは明らかです。県教委が「教職の魅力発信」などという悠長な雰囲気から方針転換を図りつつあることにわずかな期待を持ちたいと思いますが、大学生の青田買いのようなやり口は問題の核心から根本的にはずれたものであり、別の危惧が生じます。ある委員からの「この変更による受験生増加後に追跡調査が必要」との指摘は、教員の質の担保への不安を念頭に置いたものと考えられ、今回のようなさもしさの漂う小手先だけの変更では永続的な好結果が得られないことを示唆しています。
・「学び続けるぐんまの教員サポートマニュアル」についての説明がありました。
教員免許更新制の解消と共に「研修履歴の記録の作成」に関する規定ができたことによるものとのことですが、そもそも、教員としての職責を果たすための「研究と修養(略して研修)」は、個々の教員が常に念頭に置く自主的な不断の営みであり、その「履歴の記録」に専ら力点が置かれたこの規定自体、教員による「主体的学び」をはなから疑ってかかるものです。まして、「教師の資質向上向上に関する指導助言等」を含むとされる総合教育センターでの各種研修を、時に管理職によって強制的に、受講するように指示されることは、教育公務員特例法第22条の「研修の機会」の趣旨にもとるものです。まるで、「教員は勉強しないから、官製研修を受けさせよう。どんな管理職でも管理しやすいように自分で記録をつけさせよう」との文科省の意図が透けて見えるようです。さらに、このマニュアルの冒頭に「本サポートマニュアルを活用して、教員の『主体的な学び』『個別最適な学び』『協働的な学び』が実現され、更に研修の成果が子供たちに還元されることを願っています。」の文言は、文科省のお先棒を担いで「主体性」を「強いる」という論理矛盾をものともしない群馬県教委の姿勢がにじみ出ています。これらによって、教職員にとっての「研修」がかえって自主的・主体的なものから遠ざかり、義務感・負担感を伴うものになってしまうことを危惧しないではいられません。
本マニュアルの最後には、「学びの自己診断」なる「振り返りツール」が紹介されていますが、その内容はともかく、この「学びの自己診断」という名称はベネッセなどの教育産業による強烈なテコ入れが取り沙汰された「高校生のための学びの基礎診断」を彷彿とさせ、県教委の教員に対する視線が高校生に対するそれと同様であることがわかり、失望と悲しさを掻き立てます。
・今回の審議は、個人情報の保護に関する法律等の事務補助執行(第63号議案)と県立夜間中学設置基本方針策定(第64号議案)以外の議案(第65~74号議案)は、非公開でした。
(以上)
2023.2.16