◆今回も「N-E.X.T.ハイスクール構想」について:国施策の問題点と県の盲従姿勢に重大な懸念
6月30日発表の「N-E.X.T.ハイスクール構想(パイロット事業)」新規採択拠点について、今回の会議で報告がありました。すでに前回の当ちょこっとコメントで取りあげた内容ですが、群馬県教委が申請した4拠点中3拠点が採択されたという採択率の高さや文科省から申請内容が高い評価を受けたことなどが担当課長から紹介されました。そして、教育長は「手前味噌ながら」との前置きで、短期間での申請作業を担当者がゴールデンウィーク返上で行った結果であり、「素晴らしい」「嬉しい」と褒めあげました。
たしかに、今回の第3回申請では45都道府県の171拠点の申請中、69拠点が採択(採択率40.4%)で、第2回申請と合わせると、全都道府県の179拠点の申請中、75拠点が採択(採択率41.9%)というなかなか狭き門です。なお、上限の4拠点が採択されたのは全国で3県、3拠点が採択されたのは本県を含め8県であったことを考えると、担当者の相応の努力がしのばれます。ただ、東京・神奈川・愛知などの大都市を抱える自治体では採択拠点がなかった背景には、潤沢な自前予算を使って独自の施策を進められる都市部と、逼迫する財政状況から国の支援に頼らざるを得ない地方との、国の施策に対する受けとめ方の違いが透けて見えます。
「N-E.X.T.ハイスクール構想(パイロット事業)」(正式名称:「産業イノベーション人材育成に資する高等学校等教育改革促進事業」)は、総額2,955億円の基金を投じる戦後最大規模の高校教育改革ですが、私たちぐんま教育文化フォーラムでは、これまで何度もこの問題を取りあげ、制度の設計上、教育格差の拡大や教育現場の更なる疲弊に直結しかねない致命的な本源的問題(=構造的矛盾)を抱えていることをその都度指摘してきました。
主な問題点をまとめると、以下の4つ。
1.「補助金依存」による教育の持続可能性の欠如
最も根本的な問題は、これが恒久的な予算ではなく、3年間という時限的な支援である点です。支援金がある期間は最新の設備を導入できますが、支援が終わった後の維持修理費・ソフトウェアの更新費用等は自治体や学校の自己負担です。財政力の弱い自治体ほど支援が切れた途端にシステム維持が困難となり、導入した設備が数年で「無用の長物(負の遺産)」化するリスクを抱えています。
2.「選択と集中」による公教育の二極化(格差の固定)
この構想は、限られた予算を特定の「拠点校」に重点配分する「選択と集中」の論理で作られています。同じ県内でも「拠点校」と、その他の学校との間で、デジタル環境や実験設備に圧倒的な格差が生まれます。本来、公立高校は「どこの地域、どこの学校に行っても一定水準の教育が受けられる(教育の機会均等)」ことが大原則です。拠点校の得た知見を地域に順次「横展開」することが想定されているとはいえ、国自らが公立高校の中に「勝ち組」と「負け組」を制度的に作り出すことは、公教育の理念と根本的に矛盾しています。さらに、定員割れにあえぐ多くの公立高校がこれを機に一挙に統廃合となれば、教育インフラ欠如が周辺地域の過疎化を一層助長させることとなり、結果的に公教育の壊滅と地域社会の消滅を加速させます。
3.高校現場の「書類作業過多」と教員の多忙化
国費を原資とするこの事業では、厳格な「成果の見える化」が求められます。これにより、現場の教員は生徒に向き合う時間や授業準備の時間を削り、膨大な「申請書」「実績報告書」「効果検証データ」の作成といった行政文書の対応に追われることが予想されます。今回の申請に要した県教委担当者の苦労などより、今後多くの教員にのしかかる負担や生徒を巻き込んだ学校全体の混乱が心配です。また、最先端の技術・知識を教えるための教員研修や外部人材の確保に必要な準備期間は想定されていないため、予算の費用対効果は極めて不透明であり、すでに事業の破綻が予期されます。
4.地方を「産業の歯車」にする経済・産業界への傾倒
今回の構想は、経産省が主導する国家戦略(半導体やDX・GX人材の育成)に文科省が追従するという産業界主導型で設計されています。高校教育の本質は「人格の完成」や「多様なキャリアの選択肢拡大」であるはずが、「(疲弊する)地元企業に必要な労働力を効率よく供給する」という、国家や企業の都合に合わせた「人材の規格化」に偏りすぎています。特定の地域産業に特化した教育を高校段階から過度に行うことは、将来設計のための真摯な思惟やキャリアの柔軟性を個々の生徒から奪うことにも繋がりかねません。
この構想は、一見すると「最先端の未来型教育」のようですが、その本質は「国の財政負担を減らしつつ(時限予算)、都市部と地方・学校間の競争をあおり(選択と集中)、国の経済成長戦略に沿った労働力を早期に育成する」という、極めて手前勝手な統治システムであり、簡便・安直な人材育成システムといえます。
ちなみに、「N-E.X.T.」とは、「New Education, New Excellence, New Transformation of High Schools」のことだそうで、この「(単なる言葉遊びまがいの)見た目の華やかさ」と「現場が背負う構造的リスク」とのギャップこそが本源的な問題です。
(以上)
2026.8.1