・群馬県教員育成指標(改定案)について
教員としての資質に関して定めた「教員育成指標」を改訂する旨の報告が、担当所属長(総合教育センター所長)からありました。
報告とともに示された改定案「ライフステージごとの教員育成指標【教諭】(案)」を見ながら、強い既視感を覚えました。指標の内容といい、ライフステージ(教職経験年数からキャリア段階Ⅰ~Ⅲに区分)毎の形式といい、教職員人事評価制度における「自己申告書」の「能力評価」を記入する一覧表と瓜二つです。
この一覧表は、現在学校に勤務するすべての職種の人が提出を求められる「自己申告書」の一部分で、「能力評価」の自己評価を記入する書式です。教諭用書式の場合、35項目に及ぶ着眼点(期待される行動)のそれぞれについてs~dの5段階で自己評価を記入して提出すると、普段の観察や面談の結果などを勘案した評価結果が「能力評価」と「業績評価」に分けてそれぞれ5~1の5段階で評価者である校長から各個人へ年度末に伝えられます。この教職員人事評価制度は、評価者の恣意的な評価が避けられないなどその公平性・客観性への疑問が導入当初から指摘されてきましたが、県教委は「単に処遇への反映を目的とした仕組みではない」としながらも、この評価結果を昇給やボーナスなどの処遇に反映させています。
一方、「教員育成指標」は教育公務員特例法の改正により教員の資質向上を図るための指標として2017年に策定され、今回の改訂では文科省の指針改正及び群馬県教育ビジョンの趣旨を踏まえて、「教員に共通的に求められる資質能力を再整理」した、とのことです。特に、群馬県教育ビジョンに掲げられた10の重点政策にA~Jの記号を割振り、ライフステージ毎に設けられた36項目・欄外の2項目の指標にこのA~Jを付したことが今回の改訂作業で最も工夫・苦心した点だそうです。(県総教センターのサイトを参照のこと)
この「教員育成指標」にある「児童生徒の目線に立って学習指導要領における各教科等の目標及び内容等について理解している」などの各項目内容の詳述は省きますが、全般的な問題点として、
①抽象的・理念的で、具体的行動と結びつかない (意味が曖昧で、各人の解釈次第)
②内容の詰め込みすぎで、焦点が定まらない (要点が不明確で、重要度が判然としない)
③キャリア段階での内容の差がはっきりしない (レベル差が言語化されていない)
④指標に近づく手立てや手順が示されていない (自らを「育成」するためのヒントが皆無)
⑤現実の業務量や制約が考慮されていない (見栄えは良いものの、実現困難な内容が羅列)
⑥子ども・保護者・地域の多様性が考慮されていない (現実の学校現場の状況と大きく乖離)
⑦「育成」のための優先順位が見当たらない (結局、どこも深まらない)
と、挙げればきりがありませんが、最大の問題点はこのシートが「教員自らの育成のための指標=道しるべ」ではなく「理想像を並べただけの一覧表」にすぎないことです。ただ、文科省の指示であれば県教委も指標を作らざるを得ず、ネット上には全国規模の情報交換サイトまであって、各自治体の策定担当者の苦慮がうかがわれます。
そして私たちが、最も深刻な問題と考えるのは、これらのシートによって教員に「理想像への自己査定」が強いられていることです。「自己申告」という形で行う自己評価は客観性が乏しく、管理職による評価は公平性・納得性を欠き、数ばかり多い評価項目の実現を誠実に考えれば考えるほど教員のストレスは増すばかりです。
教育実践で重要なのは、うまくいかなかった授業や対応に迷った生徒指導に対する自己の振り返りですが、理想像満載の「育成指標」が正面に屹立し、正直に書けば書くほど評価が下がる構造の「人事評価制度」が背後に迫るような現在の状況では、教員の身の置き所はもはや学校にはなくなってしまいそうです。
文科省が教員の「資質向上」をことさら強調する背景には、多様な教育課題が山積していることに業を煮やしているだけでなく、教員による問題行動の発生があることは想像に難くありません。とはいえ、一方で生徒への「主体的・対話的で深い学び」を鼓吹しながら、教員に統制的な価値観と理想の押しつけを図るような今般の教育施策には大きな矛盾と欠陥があり、教員の育成や魅力向上どころか、このままでは教員の大量離退職により多くの教育現場が瓦解しかねません。
(以上)
2026.1.25