・今後の県立高校の在り方について(三)
9月・10月に引き続き、今回も「県立高校の在り方に関する検討開始」の話題です。
現在、「第2期高校教育改革推進計画」(以後、「推進計画」)が進行中(2022年度から10年間が計画時効期間)のはずですが、9月18日の定例記者会見で山本県知事によって「県立高校の在り方について、各地域の市町村と連携して検討を開始する」ことが突如発表されたのです。
そして、今後県内8地区で立ち上げる予定の検討会に先立ち、10月16日の太田・館林・邑楽①地区から11月21日の前橋地区まで計10回の情報交換会が開かれました。そこでは、各地区の県議・首長・商工農団体関係者・市町村教育長・高校関係者などを集めて、15年後の中学卒業見込者数をもとにしたシミュレーションを使った高校の在り方検討の説明が行われました。
高校を取り巻く環境の変化として、県教委は「社会の変化」・「生徒の多様化」・「生徒数の減少」・「教育のデジタル化」の4つの要素を挙げたうえで、とりわけ、「生徒数の減少」による「高校の小規模化」がもたらすデメリットが事細かに説明されました。
現在進行中の「推進計画」をご破算にして、いきなり各地区の人たちによる検討を「ゼロベース」で進めることの意図は不明ですが、「推進計画」自体に大きな見込み違いができたとは考えにくく、そもそも具体性に乏しく実効性が不透明な「推進計画」の進捗が一向に見られないことに業を煮やした末にある強い力が働いたのかもしれない、との憶測が飛び交います。ともあれ、高校の小規模化がもたらすデメリットを強調したいと考える県教委の思惑が、配付資料には明確に示されています。
しかし、この高校の小規模化を招く根拠として示された配付資料中のシミュレーションについては、情報交換会の参加者からも「ちょっとおかしい情報では?」などと相次いで疑義が出されました。配付資料によると、15年後の2040年度の中学卒業見込者数が2026年度と比較して何%になるかを地区毎に算出し、その地区内の現在の高校数を維持した前提で2040年度の各校の学級数を予測したのがこのシミュレーションです。「あくまで規模感をイメージしたもの」と県教委は説明しますが、地区外の公立高校や私立高校への進学など生徒の流出入は想定せず、学級規模や職員定数も現行のルール通りのシミュレーションでは、議論の前提どころか参加者の共通認識すら得られないでしょう。何より、高校入試の全県一学区制をしいていながら、学区制があるかのように地区の生徒の減少率を使って地区内の高校の学級数を予想しているのですから、自己矛盾も甚だしく荒唐無稽なシミュレーションというほかありません。
県が地区の方々に検討を委ねることに、情報交換会では評価する声も多かった一方で、「反対運動を恐れて地区の意見に耳を傾ける姿勢を示すアリバイづくりでは」とのシビアな指摘もありました。地区ごとに立ち上げる検討会のメンバーは、有識者などの第三者を座長として地区を代表する方々を想定しているようですが、若い世代や教育関係者以外の多様なメンバーを望む声も多くありました。また、子どもの半数近くが私立高校や地区外の高校へ進む地区もある中で、授業料無償化や近年顕著な公立高校離れの動きに対する参加者からの質問に対して、「ゼロベースで検討」や「柔軟な対応」の言葉をひたすら繰り返すだけの木で鼻を括ったような県教委の回答には、「県としての考えが示されなければ議論にはならない」との手厳しい意見も出ました。そして、「推進計画」に掲げられた「男女共学化の推進」については、誰からも言及すらなかったことがあまりに不可解です。
「すべての子どもに公平で質の高い教育」といいながら、高校の小規模化のデメリットばかりが強調された前提で各地区における検討が行われれば、今や県立高校全体の半数にも及ぶ募集定員に満たない学校の統廃合に議論が向かうのは必定です。そして、これまで小規模ながらも地道な実践を続けてきた多くの学校が、地区の判断で粛々と幕を閉じてしまうことになりかねません。
この件に関して11月県教委会議では情報交換会の日程以外の説明はありませんでした。県教委は、全県的な視野に立ちすべての子どもに公平で質の高い教育を保証する唯一無二の行政機関のはずですが、一体どういうことなのでしょう。高校教育改革に関する幅広く多様な県民の声に耳を傾けた上で、自らの責務で県教委がこの件に真摯に取り組むことを、私たちは改めて強く求めます。
(以上)
2025.12.1