・今後の県立高校の在り方について(再)
9月18日の山本群馬県知事による「県立高校の在り方について、各地域の市町村と連携して検討を開始する」との記者発表が、その前々日の群馬県教委9月定例会議では全く言及がなかった件を前回のちょこっとコメントで取り上げましたが、今回も引き続きそれについてコメントします。
今回の県教委会議で平田教育長からこの件に関して、「ガンガンぐるっぐる変わっていく社会の状況、県立高校を取り巻く環境を鑑みて、県教委で案を作ってそれについて、ではなくて、ゼロベースで地域の皆様とどういう風にしたら未来を切り開く県立高校を作っていくことができるか、ということについて、まず情報共有をしていただきゼロベースで検討していただくという風にやり方を改めた」との報告がありました。そのやり方に従い、すでに前回の県教委会議以降2地区で情報交換会が実施されたようです。そして、その成果として「地域の皆様方から様々な意見をいただき、こういう形にして本当に良かった、こういういう風に開いた形で始めて、どんどん変わっていく世の中にあって素敵な県立高校を作ることができると実感した」と教育長は胸を張ります。
しかし、これまで県教委が出した計画や各校の諸事情にとらわれず、首長や県議などの地元の人たちによって行われる「ゼロベースの検討」とは、一体何を目指す検討なのでしょうか。これまでに開催された情報交換会に出席して、「素敵な県立高校を作ることができると実感した」と教育長が言い切る根拠は不明ですが、財政面から考えても、まさか全ての県立高校をリセットした上で新たな高校をゼロベースから創設しようとしているわけではなさそうです。
現在、半数以上の県立高校では入学者が募集定員を下回っている状況ですが、地元の人たちによって県立高校の在り方について「ゼロベースの検討」を行うということは、つまるところ地区毎に統廃合を行う高校を地元の人たちに決めてもらう、ということなのでしょうか。
これまで各高校では、県教委に煽られながら血の滲むような生徒募集競争に駆り立てられてきましたが、少子化に加え「全県一学区制」(2007年度以降)の影響によって、都市部にある一部の高校に生徒が集中し、その他の多くの高校で定員を大幅に下回る二極分化が起きている状況は、近年一層深刻です。
この「全県一学区制」をはじめとする入試制度の度重なる変更や「第2期高校教育改革推進計画」(計画期間2021~2031年度、今般の方針変更で計画中止?)など、「ガンガンぐるっぐる変わっていく」施策の結果、教育現場を混乱に陥らせ、現在の危機的な状況を招いたのが県教委であることは明らかです。それにもかかわらず、これまでの施策を検証をするどころか責任の所在も明らかにしないまま、学校存廃の判断を地元の人たちに丸投げしようとするのが、今回の方針変更の実像なのではないでしょうか。
もちろん、地元の人たちを含め現在の生徒や将来の生徒、多くの住民に広く意見を聞くことは大切です。しかし、公費でまかなわれる県立高校の「在り方」について、基本的なビジョンを描き具現化していく責務は県教委にあります。一度立てた計画を中途で投げ出し、責任を地元に転嫁するようなやり方では、誰からも賛同を得られないでしょうし、公教育を所管する行政機関として群馬県教委は機能していない、と言わざるを得ません。
今回の定例会議では、この件に関して教育長からの報告があっただけで、所管すると思われる高校教育課長や各教育委員からの発言は全くありませんでした。さらに、来春中学卒業見込者の第1回進路希望調査(10/1実施)の結果報告では、対象生徒が前年度より384人減少しているところ、全日制県内公立高校希望者の減少数はそれを大幅に上回る614人とのことです。これにより、9月のちょこっとコメントでも指摘した「県内公立高校離れ」の傾向がさらに顕著になっていることがわかります。しかし、この件に関する質疑も、会議では一切ありませんでした。もはや、県立高校に関する話題については県教委会議では一言も触れないことになったかのようです。
改めて、教育の機会均等を損ない社会インフラとしての公教育の破壊に繋がる現行の「全県一学区制」を即刻見直し、すべての子どもたちが自宅から無理なく通学できる高校を存続させることと、各地区の事情を考慮した学区制の再構築を行うことを私たちぐんま教育文化フォーラムは県教委に求めます。その際、高校生・中学生や地域の住民・教職員の声に真摯に耳を傾け、この問題を自分事として捉え、自分で考え、自分で決めて、自分で動き出す主体性と、県民から負託を受けた行政機関としてのエージェンシーを県教委自身が存分に発揮することが何よりも重要ではないでしょうか。
(以上)
2025.10.29