◆「学校エージェンシー」について:主体は一体誰?
今回の会議で「令和8年度 学校エージェンシーを発揮する授業改善プロジェクト 公開授業案内」について報告がありました。10・11月に県内5つの小中学校で行われる公開授業の紹介です。「公開」とはいえ、県内小中学校教員等限定で、実施日はいずれも平日午後の「参集・オンライン併用開催」とのことです。
「学校エージェンシー」とは何なのか、疑問が浮かびます。担当課長の説明では、「本事業は、~群馬県教育ビジョンが目指す児童生徒一人一人が学校エージェンシーを発揮する学びの実現に向けて、~推進することを目的としています」とのことですが、これでは要を得ません。配付資料には、「学校エージェンシー」とは「学校全体に息づく『自分と社会をより良くしたいと願い、行動しようとする意志・原動力』のこと」とあります。しかし、群馬県教育ビジョンにある「エージェンシー」(県の独自定義)の前に「学校全体に息づく」をつけたこの説明では、学校全体に息づく意志・原動力を実際に発揮することが期待される主体が誰なのか一向に判然としません。
私たちはかつて「『主体的に学習に取り組むことが、自分や社会を良くするためのエージェンシーを発揮する深い気づきにつながる』とする県教育ビジョンには、現実と乖離した理念の先走りと社会課題の解決を個人の貢献と責任に転嫁しようとする強い意図を感じます」(2025年8月ちょこっとコメント)と、県教委の「エージェンシー」の一面的な押しつけを批判しました。
今回の「学校エージェンシー」という言葉からは、県教委が児童生徒や教員を含む総体としての学校全体を擬人化した主体とみなし、様々な教育課題を含む社会課題の解決のために、児童生徒や教員の各個人に貢献と責任を強要しようとする意図を感じます。行政が公助すべき諸課題を、自己責任論に基づき自助や共助によって解決しようとしているのではないでしょうか。これでは、行政による職務と責任の放棄というほかありません。
改めて、教育の目的が「国家・産業のための有為な人材確保」としての色合いを急速に増す最近の動きと併せ、課題解決を児童・生徒や教員個人に押しつけようとする施策に対して、私たちは断固反対します。
上記のような問題意識が参加者の発言には見られなかったことと、「エージェンシー」「始動人」などの用語が、一般には認知の薄いまま施策上のキーワードとして頻出する一方で、その施策が有効かどうかなど教育課題を解決するための検証や議論が、この会議で行われなかったことは大きな問題だと考えます。
◆教育委員会会議について:議論する場では?
今回の会議では、上記の報告以外に「県立文書館の展示」「グローバル人材育成事業感謝状贈呈式」「統一ロゴマークをつけた特別支援学校作業製品」「特別支援学校生徒対象の喫茶サービス・ビルメンテナンス研修」「未来を創る教員養成セミナー」の報告や紹介がありました。いずれも県教委所管による内容とはいえ、群馬県の教育行政をつかさどる教育委員会の月1回の定例会議として、この会議が十分にふさわしい内容であったとは言い難いと考えます。
もちろん、報告された各事業に意味がないということではありません。県教委が所管する教育行政には、例えば、不登校・長期欠席、いじめ、教員不足・教職員の長時間勤務、学力・学習状況、特別支援教育、子どもの貧困・格差、高校教育の在り方、学校統廃合、教育DX・生成AI、教育予算、教員確保・養成、子どもの権利や学校における人権など、県として継続的に検証し、判断・評価を行うべき諸課題があります。ところが、毎月の会議でこうした県教育行政の現状をデータ等で把握し、課題を設定し、施策の有効性を検証し、今後の政策を議論するという時間がほとんど見当たりません。これが月1回の教育委員会会議としては不十分と私たちが考える理由です。
県教委担当者による報告事項は多くても、それに関する分析や検証はほとんど見られず、対する教育委員の発言も「楽しみ」「ワクワク」などの感想がほとんどで、県教委として教育課題をどう把握し、どう対応するかという具体的な議論になっていません。
ある委員から不登校対策に関する他県の取組の報告がありました。本来なら県教委としての議論を進める重要な情報であり、「県の不登校の現状」「不登校児童・生徒の推移」「現在の県教委・市教委の取組状況」「SCやSSWによる応談状況」「通級指導の現況」「フリースクール等民間の対応状況」などの確認を全員でした上で、「県の不登校対策を今後どう進めるか」という議論に展開できる絶好のチャンスでした。しかし、それが視察報告として紹介されるにとどまっているのは、あまりにも残念です。せっかくの報告や問題提起があっても、現状認識を共有し、分析や検証を踏まえて施策を議論しなければ、県教委会議として機能しているとはいえません。
教育委員会の定例会議が、県教委の各事業を紹介・報告するだけの場ではなく、県民の教育に関わる重要課題について現状を把握し、検証し、今後の施策を議論する場となることを強く求めます。
(以上)
2026.9.25