・今後の県立高校の在り方について
9月18日の定例記者会見で、山本群馬県知事は「県立高校の在り方について、各地域の市町村と連携して検討を開始する」と発表しました。
その前々日にあった群馬県教委9月定例会議では全く言及のなかったこの件が、知事の記者会見で発表されたことに、私たちは大変驚きました。そして、2021年3月に公表された「第2期高校教育改革推進計画」(計画期間2022~2031年度)の枠組みにとらわれず、地区毎に設けた検討会でゼロベースで検討する、との報道内容には、県立高校に関する施策を所管しているはずの県教委の気配が薄いことを含め強い違和感を覚えます。
具体的には、県内の各地区別に県立高校の関係者(校長・同窓会長・PTA会長・小中学校の校長・市町村長・市町村議会議長・地元県議など)を対象とした情報交換会を開催して、県立高校の現状や課題を共有し、その後、地域で選定したメンバーによりその地域にふさわしい県立高校の在り方についてゼロベースで検討する地区別の検討会を立ち上げる、とのことです。
先の「第2期高校教育改革推進計画」では、「誰一人取り残さない」社会を目指すSDGsの理念を掲げつつも、その大半は「高校の再編整備」に関する事項に割かれています。「1学年4~8学級」を学校の活力維持のための「適正規模」とした上で、「入学者が40人を下回る状況が3年続いた場合を目安に、既存の高校の再編整備を検討・実施する」との方針が示されたのです。
この計画に対して、私たちはその原案の段階でパブリックコメントを出し、「教育改革」という名の下で生徒募集に悩む多くの高校、特に小規模校の「再編整備・統廃合」が機械的に進められてしまう危険性を指摘しました。そして、ますます少子化が進む中、全県一学区制(2007年度以降)で都市部にある一部の高校に生徒が集中する一方で、定員割れが続く高校との二極分化が、この計画でさらに進むことを問題視しました。
県教委が地区毎に名指しした「中核校」・「拠点校」には「維持・整備」のお墨付きを与え、それ例外の高校と差別・分断を図れば、当該学校関係者(教職員・生徒)だけでなく、多くの県民にもその意識は拡がります。学校の生き残りをかけて鎬を削る学校間競争は、ごくわずかな一部の勝者以外、多くの生徒や教職員の自信や誇りを打ち砕きます。それどころか、自宅から通える高校がなくなれば一家転住を余儀なくされ、地域の過疎化に拍車がかかるなど、教育の機会均等を損ない社会インフラとしての公教育の破壊に繋がります。
県教委の愚策によるさらなる危機を避けるため、現行の全県一学区制を即刻見直し、すべての子どもたちが自宅から無理なく通学できる高校を存続させることと各地区の事情を考慮した学区制の再構築を行うことを私たちは提案しました。
しかし、この計画発表から4年が経過した現在、機械的な統廃合こそなかったものの、今春の入試では全日制県立高校58校中30校で募集定員に達しないため再募集を行いました。また、中学3年生の進路希望調査(2024年12月実施)の結果では、県内公立高校進学希望者(前年度比-224人)の減少に対し、県外の国公私立高校(前年度比+57人)や広域通信制高校(前年度比+54人)の希望者が増加し、現に今春の広域通信制高校への入学者が863人(9/29付上毛新聞調べ)でした。これにより、少子化による影響以上に中学生の県内の公立高校離れが進んでいることが浮き彫りになりました。
また、2002年度から10年間ですべて男女共学にする方針をかつて掲げていた県教委ですが、統廃合による共学化は進んでも、男女別学校は現在でも10校あります。「第2期高校教育改革推進計画」にも「男女共学の推進」」の項目はあるものの、「男女共学を推進する」という記述のみです。
今回の知事の記者会見の内容は、県教委が専権事項としてきた県全体の高校の配置計画を白紙に戻し、既存の高校の統廃合案策定を各地区に丸投げするという極めて無責任な内容です。
県知事は県教委の意向に沿ったプレゼンだと言いますが、県教委会議ではこの件は話し合われていませんし、県教委のこれまでの施策の反省や検証もないまま、厳しい現実には目をつむり「前向きに捉えていこう」との県知事の根拠の薄いかけ声では、公平・中立な検討など到底困難であり、「通える高校がなくなる」という結果責任だけが地区の住民に押しつけられることは明白です。
県立高校離れの原因究明には一顧だにせず、各学校を競わせることばかりに終始し、地区の意見を聞くどころか当事者である子どもたちの視点を蔑ろにしてきた県教委の責任は極めて重大です。県下の子どもたちすべてが等しく豊かな教育を受けられる環境整備を全県的視野に立って行うことが、県教委に課せられた最低限の責務であると私たちは考えます。(以上)
2025.9.29